鹿島美術研究 年報第25号
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―59―=高山寺における華厳経絵画の制作についてM. Dubnov, N.Y., 1991, YIVO Institute for Jewish Research, translated by Judith Vowles, p.Hauptströmungen, Frankfurt, 1980, Suhrkamp)はアミニズムを根拠づけ、さらにこのギMaisels, “Chagall’s Dedicated to Christ: Sources and Meanings”, Journal of Jewish Art, Vol.世の物質で描くことの問題、美術史と人類の宗教意識との関係をシャガールの初期作品を通じて考察することである。本研究では、キリスト教的な象徴、動物の擬人化、疑似幾何学的な円形モティーフが描かれた理由を、シャガールが信仰していたユダヤ教の一派ハシディズムの思想をもとに解釈する。ハシディズムの万有汎神論的な世界観(Sophie Dubnov-Erlich, The Life and work of S.86)は日常生活のレベルで不可視の世界を可視化する根拠を与え、ハシディズムのギルグル(輪廻)(Seelenwanderung)思想(Gelshom scholem, Die jüdische Mystik in ihrenルグル(輪廻)の可視的表象が擬似幾何学的な円形モティーフとなる(Ziva Amishai-21/22, Jerusalem, 1995, Hebrew University of Jerusalem, pp. 74−75.)と考えられる。本研究ではこの視点から初期作品を解釈する。その際、上記表象と共に頻出するサーカスや道化のモティーフ、身体の切断といったグロテスク性についても考察したい。これはロシア・アヴァンギャルドの文脈として、バフチンのグロテスク・リアリズムを以て解釈されることがある。しかし、ハシディズムの成立目的自体が宗教改革的であり、日常の信仰内容に舞踏や音楽の歓喜といったカーニバル的要素がある。よって、神聖なもの、崇高なものに両義的な格下げはなく、笑いは神聖なものを強化すると考えられる。この視点を持つフレイデンベルグやグレーヴィチの中世文化研究を参考に、ハシディズム文化の特徴を整理し、シャガールの初期作品を考察する。研 究 者:大阪大学大学院 文学研究科 博士後期課程  森 實 久美子仏教史の分野では、東大寺と高山寺が、同じ華厳宗寺院でありながら異なる宗風を展開させたことが指摘されている。その違いの一つとして、明恵在世時の高山寺が、宋ばかりではなく高麗の文物も受容し、自らの思想に積極的に取り込んだことが挙げられる。明恵が新羅・高麗の華厳教学に傾倒していたことは、新羅僧である義湘と元暁の伝記を絵画化した「華厳宗祖師絵伝」の存在によっても知られるとおりで、東大

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