―61―?日本美術オーラル・ヒストリー・アーカイヴの構築信が実見したとする言葉を記している。特に横浜は開港まで描かれる機会が少ないため、実地体験と貞秀の想像力によるものと評価されてきた。しかし、歌川広重の風景画の研究でも明らかになっているように浮世絵師が景色を描く場合、既に出版されていた作品の表現を参考にすることが少なくない。私は貞秀もその例外ではないと考える。したがって先行作例が指摘できれば貞秀自身がなしえたことを明確にすることができる。また、貞秀もすべての場所に足を運んで鳥瞰図を制作した訳ではないと思われる。その場合はより資料を必要としたはずである。そのような、鳥瞰図制作のシステムを一端でもあきらかにすることは、浮世絵師貞秀の画業を正しく評価するために必要である。近年、地図研究において貞秀の鳥瞰図は取り上げられる機会が少なくない。そのため、浮世絵の研究からも前述のような調査を行い、貞秀が緻密な鳥瞰図表現を完成させるにいたった過程を明確にすることは、必要かつ意義のあることと考える。その上で貞秀が浮世絵史上に果たした役割を明確にする。研 究 者:広島市立大学 芸術学部 准教授 加治屋 健 司他戦後の日本美術に関する歴史資料は豊富にあります。雑誌や新聞の記事、作家の手紙やノート、展覧会カタログなど、多くの文字資料が残されています。しかし、戦後の美術において最も貴重なのは、当事者が存命中であることです。当事者の記憶の中にしか存在しない情報、記録に残さなければいつしか消えてしまうものは多くあります。従来の歴史研究において、口述史料は文字史料よりも低い価値を与えられてきました。しかし第二次世界大戦以降、オーラル・ヒストリーは社会学や人類学などとの交流から、歴史学で急速に発展しました。美術史の分野でも、米国立アメリカ美術アーカイヴが1954年にオーラル・ヒストリーの収集を始めています。現在では二千を超えるそのインタヴュー集は、世界中のアメリカ美術研究者にとって欠かすことのできない存在となっています。本研究は、歴史的な関心に基づいてインタヴューを行い、口述史料を残すことで、戦後日本の美術をより包括的に研究する環境を整備することを目指しています。それと同時に、日本の美術に関する個人的・集団的な記憶を次世代に継承し、その活動を
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