―64―B15世紀フィレンツェにおけるタブロー画の成立資料群の構築が果され、これまで日光東照宮などに代表されてきた江戸期の霊獣の装飾をめぐる系譜に対して、一石を投じる成果が期待される。これはひいては絵画研究等の側面から議論されることの多かった「黄檗美術」、あるいは「黄檗文化」研究の現状を打破し、その裾野の広さや豊かさ、その越境的特質を改めて問い直す試みとなることを確信するものである。研 究 者:京都造形芸術大学大学院 芸術研究科 博士課程 長谷川 純 子これまでの研究において申請者は、額縁の起源と誕生について考察した。額縁誕生について、先行研究ではフィレンツェで額縁が生まれたことが述べられていたが、その詳細については語られることがなかった。額縁誕生の要因を考察するために、イタリアの9都市に赴き調査を行った。そのなかで明らかとなったことは、額縁はフィレンツェで突然造られたものではなく、他の都市からの大きな影響を受けていたことである。土地によって異なった祭壇画制作方法を集約し、単一の画面を持つ祭壇画枠として誕生させたのはフィレンツェにおいてであった。今後の研究の方向として、15世紀のフィレンツェを中心に、独立した移動可能な絵画であるタブロー画の成立していく過程について調査を行う予定である。タブロー画の成立は額縁の誕生とほぼ同時期と考えられる。しかしそれについてこれまで明らかとされることはなかった。タブロー画成立の背景には、技術的・社会的背景も含め、様々な要因が考えられる。そこで当時の記録資料、また絵画の構造や形態等も合せ、フィレンツェで実地調査を行いたいと考える。なお、西洋におけるタブロー画の成立をイタリアのみで決定づけることは不可能である。そこでフィレンツェでの調査後に、アルプス以北における同時代の祭壇画の実地調査を行う予定である。15世紀のフランドル絵画は独自の特色をもち、油彩技法とこれを生かした写実的表現において、イタリア絵画に影響を与えていた。しかし、タブロー画の成立についてどのような影響が双方にあったのか、その後の研究で明らかとしたい。
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