―71―マーク・ロスコ晩年の作品における様式の意味―1950−60年代のアメリカ美術との関係性をめぐって―では民族芸術学を専攻してきた。従来の研究者たちのように形態や様式から現地の手工芸文化を観察するのではなく、実制作に基づく参与観察に重点をおく姿勢をとってきた。そのため、得られた研究資料は、これまで報告されたものよりも深く現地の人々の思考性・芸術性を掘り下げた技術誌的観察に基づくものということができる。また、手工芸研究において制作技術に関する調査研究のみを行うと、巨視的な観点からの観察が難しくなり、その手工芸品が持つ社会的文脈を明確に捉えることができない。そのためこのような旧態を刷新し、造形文化についてより正確かつ深い理解を広めるためにも、自らの手工芸文化の存続危機における各集団の文化形成の在り方について、具体的な手工芸品を事例に挙げて、フィールドワークにより、社会との有機的な関連性を分析することは、世界の手工芸文化を考える上でも重要な意義を持つものである。研 究 者:神戸大学大学院 文化学研究科 博士課程熊本市現代美術館 学芸員 芦 田 彩 葵マーク・ロスコ晩年の作品である《ダーク・ペインティング》は、1968年から創作されたシリーズの総称である。これまでのロスコ様式の作品に見られた鮮やかな色彩が廃され、黒やグレーを基調に描かれているため、晩年のロスコの私生活や、衰退しつつある抽象表現主義という立場から論じられることが多かった。近年では、ロスコ芸術における新たな芸術表現であると肯定的に捉える意見もあるが、その多くが思想面からの分析であり、様式については具体的に考察されてこなかった。ロスコの意志により生前、《ダーク・ペインティング》は一般に公開されなかったが、親しい関係者に披露された際にグッゲンハイム美術館のトーマス・メッサーは即座にロスコに個展開催を申し出ている。このことからも《ダーク・ペインティング》が時代遅れの抽象表現主義の作品でなかったことがわかるだろう。この数年、50年、60年代のアメリカ美術を色彩によって解釈する試みが行なわれているが、黒の多様性を認識していたラインハートやラウシェンバーグ、ロスコの影響を受けたステラのブラック・ペインティングシリーズなど、彼らがその時期にモノク
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