鹿島美術研究 年報第25号
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―72―建長寺所蔵「観音図」三十二幅の研究ロームの色彩を意識的に多く使用していたことが窺える。鮮やかな色彩で知られるロスコだが、1957年からはロスコの作品は暗い色調で描かれ始め、モノクロームの《ダーク・ペインティング》へと発展した。このように、時代と色彩の関係性が問い直される中で、この問題をロスコ作品に照らし合わせることは非常に意義深いものであると考えている。また、ロスコ様式の色彩について既にクレメント・グリーンバーグが絵画の開放性を指摘していたが、60年代のロスコ作品では、異なった視点から開放性が追究されている。64年から着手された《ロスコ・チャペル》では、建築にも関わるなど絵画をより空間的なものとして捉え、続く《ダーク・ペインティング》では、これまでの地と図の構成を廃した2層の色面と水平線のみを横長の画面に描いている。以上のように展示方法や構図によって新たな開放性を獲得しようとする姿勢が読み取れる。当時、マザウェルとゴットリーブも新たな様式のシリーズ制作を始め、絵画の開放性を目指していた。ロスコ周辺の画家たちの作品と比較研究することで、ロスコにとっての絵画の開放性とは何を意味し、いかなる表現であったのかを分析していきたい。その成果は従来の《ダーク・ペインティング》に対する見解、そして50年、60年代アメリカの芸術活動の捉え方を問い直す一助となるだろう。研 究 者:鎌倉国宝館 学芸員  村 野 真 作本申請研究で取り扱う建長寺所蔵「観音図」(国指定重要文化財)は、山中で様々な姿態をとった観音の姿を三十二幅にわたって描いた水墨画である。寺伝では祥啓筆と伝え、現在でも時折祥啓に仮託されるが、実際は仲安真康以後、祥啓活躍以前の十五世紀の第三四半世紀頃に、別人により合作されたものとみるのが有力である。近年の関東水墨画研究の進展により、祥啓以後の関東画人たちの輪郭は飛躍的に明瞭になったが、一方で祥啓前代における十五世紀中葉の当画壇については依然として模糊とした状況にある。その中で本図はそうした空白期を埋める作として貴重であり、本図の分析を通して、遺品の少ない十五世紀中葉の関東画壇の一様相を提示することができると思われる。まずはこれまで行なわれてこなかった本図三十二幅の丹念な観察と詳細な分析、および光学的調査による印文の判読等により、今後のたたき台として、それぞれの画幅の様式分類を提出したい。そこから抽出される様式特性を検証す

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