―73―光信系小絵作品群に関する研究 ―光信周辺小絵の位置づけについて―ることにより、祥啓以前における関東画壇の考察にひとつの道筋を提供できると思われ、そしてそれは同時に、類い稀なる画才を発揮した祥啓を生みだす素地を解明する糸口になりうるとも考える。一方、米国・山荘コレクションの伝一之筆観音図をはじめ、本図との関連が指摘される一之系観音図や仲安真康画などとの比較検証および彼らの伝歴の再検証によって、それらの逸伝画家の輪郭をより明瞭化することもまた本申請研究の大きな目標である。あわせてそれらの画家が参照した図様ソースについても改めて検証し、そうした図像学的な考察を行っていく中で、中世後期における水墨観音図の受容と展開についても跡づけていきたいと考えている。本図に関するそうした諸問題に取り組むこの申請研究により、鎌倉を中心とした関東画壇に関する新たな知見と、関東画人たちのより具体的な動向と営為とが見出されることと思われる。それはまた将来における中世関東画壇史の構築へも多分に寄与するものと考える。研 究 者:早稲田大学大学院 文学研究科 博士後期課程 谷 川 ゆ き本研究の目的は、光信周辺小絵五点の制作者・制作年代・制作背景を、光信小絵との関わりに注目して明らかにするとともに、光信系小絵作品群を総体的に考察し、光信の画業および室町絵巻の中に位置づけることである。従来光信研究において、小絵は光信縁起絵巻の傍流として扱われる傾向にあった。しかし、『実隆公記』などの同時代史料からは、小絵が熱心に鑑賞・制作されていた様子をうかがうことができる。光信をとりまく環境で小絵ブームとでも呼ぶべき現象が起こっていたことが知られ、縁起絵巻とは異なった独自の絵巻ジャンルとしての位置を占めていたといえる。光信研究の現時点の課題は、光信様式の位置づけおよび工房制作についての検討であるが、縁起絵巻以外の作品は文献資料に乏しく、研究はやや手詰まりの感を見せている。そこで申請者は光信系小絵に着目した。本研究の意義は、光信系小絵を作品群としてとらえて総体的に検討することによって、光信様式とその広がりを把握する試みにある。光信系小絵各作品、中でも光信周辺小絵は、奥書や同時代史料等の文字史料だけで
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