―74―F香雪美術館蔵「阿弥陀聖衆来迎図」研究なく、比較対象となる同時代土佐派作品に乏しいため、絵師の同定は非常に困難である。そこで光信筆である三点を軸として設定し、光信系小絵作品群における作品相互の関係を考察することによって、各作品の個性を位置づけていく。さらにその作業を通して、何が光信様式として共有されていたのかをあぶり出すことができ、光信様式の広がりの把握につながることが期待される。また、「源氏物語画帖」(ハーヴァード大学サックラー美術館、天理大学)、「北野天神扇面貼交屏風」(道明寺天満宮)、「源氏物語絵扇面散屏風」(浄土寺)などは、光信が関与して複数の絵師によって制作されたと目される作品、いいかえれば光信工房による制作と考えられている。これら工房作の様式を検討し、光信周辺小絵との関係を探る。この作業によって、光信周辺小絵の絵師の輪郭が浮き彫りになる可能性があると同時に、光信の工房制作について知る糸口ともなると思われる。研 究 者:香雪美術館 学芸員 仙 海 義 之意義:香雪美術館本は、興福院本・三千院本・西教寺本等の聖衆来迎図と尊像構成の系統を同じくする一本として、来迎図の本流に位置づけられる作と言える。更に、本幅の色紙形に書された字句は、西教寺本の他、金戒光明寺の山越阿弥陀図に、源信の発願文とともに記される七言律詩と同文である。源信に始まるとされる聖衆来迎図の流れを知る上で、それぞれが重要な指標となる香雪美術館本と三千院本との関係を考察する、本研究の意義は大きい。価値:香雪美術館本・三千院本等、類型的な作品の存在は、それぞれ先行作品を模して制作されたものと推察され、両本は共通する原本に基づくものと想定される。三千院本については、天台浄土教系来迎図の一つの原形を継承する古様を示すものと評され、両本の相似性は、古代・中世に於ける天台寺院間の交流を基盤とするものである事が想像される。こうした天台浄土教下に於ける来迎図図様の伝播の様相を知る一助となり得るものとして、本研究の価値は高い。構想:本研究は、来迎図を中心とした、中国・日本の各時代にわたる浄土教絵画の展開に関する考究の一環に組み込まれる。申請者は、先に、論文「臨終行儀に於ける設像―来迎図・来迎像の成立と展開を考察する為の一視点として―」(『國華』第1318
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