鹿島美術研究 年報第26号
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―18―対するシエナ市民たちの崇拝が、同地を円滑に統治する上での危険な障害に映ったことは、想像に難くない。シエナ征服後のフィレンツェ人画家によって描かれたこの作品には、聖母像に対する伝統的な信仰をいわば検閲し、それを人為的に改変することで、自身の政治的勝利を賛美しようとする、支配者側の政治的意図が透けて見えるのである。3.フリードリヒ《四季》連作―画家の世界観からの検討―発表者:早稲田大学大学院 文学研究科 博士後期課程 落 合 桃 子ドリヒの四季図の集大成と目されている。大きさはいずれも縦19cm、横27cm前後、紙に褐色インク(セピア)、鉛筆で描かれている。制作年代については諸説あるが、近年では1826年頃とみなされており、これが定説化している。本発表もこれに従って議論を進めていく。フリードリヒにおける四季図は単なる4つの季節の描写にとどまるものではなく、画家を取り巻く世界の表象であり、世界観や歴史認識とも密接に結びついている。そのことを具体的に示すことが、発表の主旨である。本連作については、ロマン派的な自然感情や歴史的発展、社会的状況、地質学の影響など、さまざまな観点から考察がなされてきたが、画家がこの連作にこめた中心的なコンセプトの理解や統合的な意味の追求はまだ不十分であると言わざるをえない。本発表は、その解明にむけたひとつの試みである。本連作は、1803年に制作された4枚からなるセピア画の《四季》連作に基づいて描かれたのだが、ここでは4枚から7枚の連作へと改変されている。1枚目《夜明けの海》の図像源としてすでに17世紀オランダの銅版画による天地創造図の第1日目《光の創造》が指摘されているが、「7」という数の象徴的意味に関して同時代の文献を19世紀前半のドイツでは、四季を主題とした絵画作品が数多く制作された。ドイツ・ロマン派の画家として知られるフリードリヒ(Caspar David Friedrich,1774−1840)もまた、くりかえし四季図の連作に取り組んでいる。この発表で分析を試みるハンブルク美術館《四季》連作は、画家のカタログ・レゾネに従うなら《1日の時、四季、人生の諸段階の連作》と題された作品である。7枚の連作で、油彩ではないがフリー

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