鹿島美術研究 年報第26号
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(2009年)Ⅲ.2008年度「美術に関する調査研究」助成決定研究者と研究課題(1886年刊)で挙げた4項目89件(和漢籍68件、洋書21件)の「参考文献Bibliography」―23―研究目的の概要① 19世紀末における〈日本美術史〉資料収集のネットワーク―ウィリアム・アンダーソン旧蔵和漢籍を中心に―研 究 者:元島根県立美術館 学芸員  村 角 紀 子本研究は、日本美術史研究の先駆的存在である英国人医師ウィリアム・アンダーソンの旧蔵書、特に和漢籍の調査を通じて、日本人による大系的通史のなかった19世紀末において、〈日本美術史〉の情報はどのように収集され、活用されたのか、さらに、日本人はそこにどの程度関与したのかを検証しようとするものである。これにあたり申請者は、アンダーソンが著書『大英博物館所蔵日本中国絵画目録』に着目したい。このうち和漢籍、すなわち江戸時代以前の画譜・絵手本・画史等は、日本美術史編纂にあたってアンダーソン自身が参照し有効と認識していた、特に重要な資料だったといえる。アンダーソンの旧蔵書は、イギリス帰国後、大英博物館が数回に分けて買い上げており、現在は大英図書館に所蔵される(ただし一部絵本類は博物館へ再移管)。先行研究においては、大英博物館所蔵の絵画コレクションについて近年詳しい調査と紹介が進んでいるものの、旧蔵書については書誌学的な紹介を除いてほとんど注目されていない。このため本研究では、まず上掲の和漢籍68件について大英図書館と大英博物館で現存状況の確認を行い、受入印の日付等からアンダーソン旧蔵と確認できたものについて、その蔵書印・書肆印・書き入れ等の調査を行う計画である。ここから、アンダーソン以前の所蔵者や流通経路、利用方法の実態を追うことができるだろう。また、所在が確認できなかったものについては、サトウ、アストン、チェンバレン等、日本滞在期に交友のあった英国人ジャパノロジスト達の旧蔵書との照合作業を行い、相互の協力関係を検証していきたい。本研究の成果は、アンダーソン個人の顕彰にとどまらず、19世紀末、特にいまだ不明な点の多い1870〜1880年代前半の日本美術史研究状況を明らかにすることが期待さ

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