―28―⑦「後三年合戦絵巻」の武装表現にみる色彩観義と写実主義の対立を論じた塩谷純氏、中国絵画史の視点から横山大観を論じた板倉聖哲氏の研究も、新たな横山大観研究の傾向として注目される。しかしながら、課題制作に詳細に迫ろうとした研究、特に宋代画院の影響という視点から迫ろうとした研究はなかった。課題制作に関する議論はいまだ必ずしも出尽くしたとは言えない。横山大観の昭和期の回想に、課題制作には宋の先例があるという記述がある。実際、宋代・徽宗の画院では課題制作が行われていた。これらの宋代画院における課題制作と岡倉天心による課題制作の影響関係、共通点と相違点を浮き彫りにすることが、本研究の目的である。これによって得られた成果は、横山大観、菱田春草といった近代日本画家の個別研究を豊かにするものとなろう。同時に、それは岡倉の理想主義という日本近代美術史の根幹に関わる問題を明らかにすることにもなる。これを鑑みれば、課題制作をテーマに作品と資料の分析を進める本研究の意義はより高まるといえよう。さらに、本研究は、日本近代における中国画理解という点で、東洋絵画研究史にも寄与するものである。すでに、日本近代における中国画理解を分析した宮崎法子氏の研究があるが、その詳細については、いまだ不明な点が多い。申請者は、この問題の解明には、日本近代絵画研究の進展も不可欠であると考えており、本研究の成果は、これにも貢献できるであろう。研 究 者:九州産業大学 芸術学部 講師 佐 藤 佳 代意義:これまで「後三年合戦絵巻」をはじめとする絵巻にみられる武装表現に関する研究は、鈴木敬三『有職故実図典―服装と故実―』(吉川弘文館、1997)に代表される有職故実からみた研究や、山岸素夫『日本甲冑の実証的研究』(木耳社、1981)に代表される構造分析的な実証研究が中心であった。申請者はこれまでの実証的な研究を根底としながら、一例ずつ具体的な武装の色彩や色相関係を検証し、武装例のデータベースを作成する。そこからみえる本絵巻の武装表現の色彩観を明らかにすることに意義があると考える。
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