―29―⑧ 近代台湾美術における故郷価値:本研究の特筆すべき点は、本絵巻よりデータベース化した色彩の傾向を、他の絵巻のデータと比較検証することで武家装束の色彩観の変遷や他の時代との差異を示唆する点である。本絵巻は、貞和3年と年代が記された序文があり、巻末には詞書筆者名・画工名も記された、制作時期が確定している数少ない絵巻史料のうちのひとつである。これまで申請者が調査した「蒙古襲来絵巻」「平治物語絵巻」「伴大納言絵巻」のデータベースとの比較、さらに現存する大鎧作品や軍記物語等の文献記述と比較考察することで、より多視点からの武家武装美の位置づけが期待できる。このような研究はこれまであまり類を見ないため、絵巻の武装表現の基礎データとしての資料的価値も大きいといえるだろう。構想:申請者がこれまで行ってきた絵巻にみられる武装表現の研究に成果が出たので、今後はその研究方法をさらに発展させて本絵巻の調査研究を進めていきたい。また本研究によって集積されたデータや資料は、可能な限り公開することを前提とする。研 究 者:東京大学大学院 人文社会系研究科 博士課程 邱 函 D本研究の意義は、台湾人画家と第二世日本人画家のそれぞれの台湾を描く作品を取り上げ、その中に隠される人間の情感、アイデンティティなどを比較分析することにより、複雑な視線の交錯の中に成立していた台湾風景画を新しい視点から解釈することにある。現在、近代台湾美術における風景画の研究は概ね、「地方色」という観点を中心に進められている。これらの論考ではまず、日本人画家の異国情緒を求める視線の下に、「南国」という台湾のイメージが徐々に定着していった点、また、台湾人画家は独自の美意識によって台湾人自身の「地方色」を表現することができたという点が説明される。しかし、日本人の台湾に対するイメージは異国情緒だけでは説明し尽くせないし、台湾人独自の「地方色」とは何かという点についてもいまだ具体的な分析はなされていない。本研究では、画家自身の故郷意識という新しい角度からそれぞれの作品を分析することによって、彼らがどのように自分の存在を定義していったのかを考察したい。
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