鹿島美術研究 年報第26号
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―32―⑪ 近代日本における戦争と彫刻の関係(『屋外彫刻調査保存研究会会報』1〜4号、平瀬礼太「戦争と美術コレクション」『講座日本美術史6巻』東京大学出版会、平成17年)、この時代に生まれた彫刻の、そ「戦犯」として名をあげられた中村直人の、戦中の活動についてなど、明らかにして研 究 者:小杉放菴記念日光美術館 学芸員  迫 内 祐 司このたびの申請研究において、申請者は15年戦争期の日本で、各種戦争美術展に出品された彫刻や、各地のモニュメントについての現存作品の確認調査を行い、文献や公文書の資料調査によって当時の彫刻家たちの思想について考察を加えていくことで、戦争が当時の彫刻に及ぼした影響について検討していくことを目的としている。この研究の意義として次の2点があげられる。まず、近代日本彫刻史の研究は、田中修二氏や大熊敏之氏らの著作のほか、平成19年に東京国立近代美術館をはじめ、日本各地を巡回した「日本彫刻の近代展」の開催にみられるように、近年徐々に進展しつつあるものの、絵画や工芸の分野と比較してみても、まだまだその蓄積は不充分であるといわざるをえない。昭和前期、とくに15年戦争期の彫刻については、銅像供出に関する調査研究は多少なされてはいるもののの造型性について論じることは、これまでほとんどなされてこなかった。本研究は、昭和期の彫刻を考えていくうえで不可欠のものであり、たとえば戦中の統制団体「全国彫塑家連盟」が戦後の「日本彫塑家連盟」へつながっていくことなどを考えると、戦後の彫刻史研究へも寄与するところは大きい。15年戦争期の美術についての研究もまた、近年とみに進展してきてはいるものの、それらは主として絵画を中心とするものであり、彫刻作品についてはまったく等閑視されてきた。しかしながら、宮崎市の「八紘之基柱」に代表される、日名子実三の旺盛なモニュメントの制作活動の実体や、戦後日本美術会から彫刻家としてはただ一人、いかなければならない課題は多い。この研究によって、15年戦争期の日本美術史研究は、より多角的な視点を得ることが出来るようになるものと考える。

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