鹿島美術研究 年報第26号
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―38―⑱ 島田元旦の画風について ―谷文晁との関連から―⑲ 近世紀州における実景図の研究 ―十代藩主・治宝をめぐる絵画制作状況―研 究 者:鳥取県立博物館 学芸員  山 下 真由美本調査研究は、谷文晁の最も身近にいた人物の一人として、弟の嶋田元旦を捉え、文晁との具体的な関わりについて様々な資料から言及し、元旦の絵画制作における文晁の影響を両者の作品を通して考察するものである。このことにより、文晁と元旦の、兄弟であるが故の非常に近しい関係、及び元旦の作風にみる文晁の強い影響の二つを明らかにすることを目的としている。文晁が様々な絵の様式を展開していることは、文晁の画風を語る上でしばしば指摘されることである。このような中でも元旦がどのような画風・技法を摂取しているかを探ることは、元旦の作画の特徴を明らかにするのみならず、文晁の弟子である渡辺崋山や、洋風画家として有名な亜欧堂田善らが、文晁の画塾・写山楼において、何をどのように学んだかという学習の内実を知る一つの手がかりを与えるものであると考える。さらに視野を拡げれば、元旦の鳥取藩島田家への養子縁組や、幕府の蝦夷地調査への同行などの事実からは、元旦が文晁の代替としての役割も担っていたのではないかと推測され、これらの推測を他の資料によって裏付けることも可能ではないかと考えている。元旦との関わりから論じることで、本研究が従来の文晁像ひいては日本絵画史に新たな一面を加えるであろうことが期待される。研 究 者:学習院大学大学院 人文科学研究科 博士後期課程  大 橋 美 織本研究は、紀州藩十代藩主・徳川治宝の治世において制作された実景図を、作品調査・実地踏査・文献資料に基づき把握することにより、近世における実景表現の制作態度とそれらを享受する側の実態を明確にすることを目的とする。本研究では、歌枕を題材とした名所絵のみならず、実際の風景に取材した作品が多く描かれ始めたこの時期に、誰のために、どのような手法で、如何なる意味をもって実景が描かれたのかを検証することで、当時の人々の実景図に対する意識を明らかにする。中でも、近世の実景表現を検討する上で紀州を主軸に据えて考察することは、

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