8シュトゥットガルト時代のオスカー・シュレンマーとバウハウス―41―上記の問題意識を踏まえ、美術家自身による美術史的言説の記述という近代美術に特有の現象を、この時代の固有の状況において詳細に検討することを研究のもう一つの眼目としたい。また、現代における「過去の美術」の存在と意味、可能性を問うなかで、美術と美術館をめぐる自己言及的な表現をめぐって研究し、美術館と美術史が潜在的に有する創造性について考察できればと考えている。研 究 者:京都市立芸術大学 非常勤講師 青 木 加 苗本研究の目的は、シュレンマーの初期の活動を実際に交友のあった周辺作家と比較検討することで、シュレンマーの造形性を明らかにすることにある。シュレンマーがバウハウスに参加する以前の時期は、人間というテーマと独自の抽象的スタイルを確立することが重要な課題だったが、この時代を検討することは、彼がのちにバウハウスへ招聘された際、どのような期待を持って受け入れられたのかを確かめることにもなるだろう。また、シュレンマーらが在籍したシュトゥットガルト美術アカデミーは、直接指導を受けたアドルフ・ヘルツェル(1853−1934)の存在により、先進的なアカデミーとして知られ、教師の作品をテーマに画面構成の分析・討論を行うなど、興味深い授業も多い。また学生の中には初期バウハウスで中心的な役割を果たすヨハネス・イッテン(1888−1967)も含まれていた。つまり本アカデミーを見直すことは、バウハウス研究にとっても有効な一視点となる。一方、シュレンマーの研究自体にも意義がある。シュレンマーについての先行研究は、本国ドイツでは比較的早くからあり、特に作品分野別のレゾネ出版に伴い、カーリン・フォン・マウアーを中心にほぼ年代確定がされたことは、申請者を含む後続の研究者にとって大きな助けとなっている。しかし作品そのものの検証では、それぞれの領域を複合的に検討する視点が欠けており、結果、シュレンマーの造形的特性が十分に明らかにされているとは言い難い。また日本ではバウハウス自体への関心や舞台作品の特異性からシュレンマーが度々注目されてきたが、残念ながら舞台作品の紹介に留まり、本格的な作家研究はほぼ皆無であるというのが現状である。このことはシュレンマーの絵画がその人間という「既存」の主題性故に、見過ごされてきたのだと思われる。
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