鹿島美術研究 年報第26号
57/96

9コレクターとしてのモーリス・ドニ:江戸幕府の造像と天海の構想および七条仏師に関する研究―42―1920年代後半、ルーヴル美術館に作品が所蔵されるまで画家、批評家、画商、コレクけれども申請者はこれまでの研究において、シュレンマーの絵画が人間存在への疑問と葛藤を孕みながらも、いかに論理的に絵画の二次元性における造形的秩序を追求しているか、そしてそれが固定化したモダニズム評価に新たな側面を付与するものだと確信してきた。本研究は1世紀近くを経た現在だからこそ見直すべき20世紀初頭の芸術を研究するものである。―ゴーガン・コレクションの形成と展覧会の機能をめぐって―研 究 者:東京大学大学院 総合文化研究科 博士課程  小 泉 順 也1903年にゴーガンが死去し、1906年にサロン・ドートンヌで回顧展が開催されたからといって、フランス近代美術史において確たる地位が確立されたわけではなかった。ターなどの様々な思惑が交錯していたのである。モーリス・ドニは『理論集』(1912)をはじめとする論考のなかで、進歩史観的な言説を展開すると同時に自身で作品を蒐集し、重要な展覧会に作品を貸与することで持論をいっそう堅固なものにしていったといえる。ドニの美術批評のテクスト分析に加えて、こうしたコレクターとしての役割や展覧会の機能にも目を向けることで、フランス近代美術史の一つの側面を立体的に抽出することになるだろう。本研究はポール・ゴーガンとモーリス・ドニの関係を基軸として、20世紀前半に構築されたモダン・アートの言説空間と実際の作品を介したモノの交流史としての近代美術史を総合的に再検討しようとする試みである。画家、批評家、コレクターというドニの多面的な活躍に焦点を当てることで、ゴーガンにまつわるモダン・アートの価値基準が定説化していく過程が浮き彫りになるはずである。研 究 者:文化庁 文化財部 美術学芸課 文化財調査官  川 瀬 由 照近年の彫刻史研究では、鎌倉時代以降の基準作例の調査研究がかなり進んでおり、室町時代以降の基準作例の調査・整理も進展してきている。しかし近世彫刻の作品研

元のページ  ../index.html#57

このブックを見る