鹿島美術研究 年報第26号
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唐招提寺金堂諸像の機能と構成に関する研究―49―らく、在銘作品や史料上の記載から仏師の動向や系譜を整理するに留まっていたことは否めない。しかし近年では、新たな作品や史料が多数紹介され、実証的な研究も進展しており、当代の彫刻史研究は注目を集めつつあるといってよいだろう。ただし、その情報は年々飛躍的に増加しているため、従来の見解に対して見直しを要する問題や新たに検証すべき問題が発生してきている。当代の仏師たちは自らの権益を確保し、さらに拡大していこうと幅広い活動をみせるが、その詳細は不明な点が多い。また同一流派の仏師間でさえ、作風の多様性が認められるなど、各仏師をとりまく様相は複雑さを呈している。よって各仏師の活動の実態を解明し、彫刻史上の評価をより正確に行うことが、当代の彫刻史研究を進展させる基礎研究として重要になる。当代仏師の中でも、性慶は仏師系譜の見直しを迫られていることで注目されているが、その動向も実に興味深い。西園寺という大寺院の大仏師職にありながら、東寺での権益拡大を求めて大仏師職補任を競望したが叶わず、その後確認されている事績は京都を離れた地方のみとなる。各事績の詳細については不明な点が多いが、当代仏師の在り方の変容を考察する上でもその動向は興味深く、活動の幅、展開といった実態を明らかにすることは、性慶が当代の代表的な仏師であるだけに、当代彫刻史研究の進展には欠かせない重要な課題の一つである。本研究では比較対象として性慶の周辺仏師の動向についても着目していくが、それは同時に周辺仏師の作品や活動を再検証する役割も担っており、収集するデータは今後ますます盛んになるであろう当代仏師研究の基礎資料として有意義なものになると期待される。研 究 者:東北大学大学院 文学研究科 博士課程後期  塚 本 麻衣子唐招提寺金堂の廬舎那仏・薬師如来・千手観音という三尊構成について、従来、鑑真の個人的信仰に帰する説、また天下三戒壇を象徴したとする説がある。後者に関しては、仏教界への統制を厳しくした光仁朝の施策に同調し、その中で発展を図るための構想といった、極めて政治的な文脈から解釈がなされている。しかし、近年、仏像に期待された役割について新たな視点が提示されている。唐招

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