?初期狩野派絵巻の研究 ―「二尊院縁起絵巻」を中心に――53―念に調査することで、さらに指摘することが可能であると思われます。まずは先行研究の徹底的な渉猟、さらには主にイタリア各地の美術館やナポリの諸聖堂での調査を通じて、こうした事例を可能な限り網羅的に収集し、それらを整理、分析することで、カラヴァッジョとナポリの画家たちとの関係解明に寄与したいと考えています。また、申請者は今後、17世紀前半のナポリの画家たちについて、その制作活動の史的展開をめぐる考察や作品の個別研究も行っていきたいと考えており、本研究はその出発点としての意味を有するものであります。研 究 者:学習院大学大学院 人文科学研究科 博士後期課程本研究の目的は、「二尊院縁起絵巻」の検討という、個別作例の検証を通じて、初期狩野派による絵巻物の画風を検証し、初期狩野派の重要なパトロンであった三条西家との関係を解明することである。これまで、初期狩野派研究の焦点は、障壁画や屏風、漢画といった作品群に置かれ、絵巻についても、「やまと絵学習の成果」として位置づけられることが多かった。一方、絵巻物研究の立場においては、初期狩野派による絵巻の分析は個別的な作品論の枠組みへと還元される傾向にあった。そのため、狩野派にとっての絵巻物制作の意義や、他の形態を有する作品への影響、初期狩野派絵巻の絵巻物史上における位置といった包括的な議論が、今後の課題として残されている。本研究は、これらの問題を解く鍵を与えるものとなるだろう。また本研究は、同時代の縁起絵巻制作における実態解明にもつながっていく。応仁の乱以降、多数の縁起絵巻が制作されたが、縁起は再生産されることによって、その内容を整理・変容させていった。「二尊院縁起絵巻」もまたその潮流の中にあり、そこには、「伝えられ、顕彰されるべき」逸話が選びとられ、散りばめられている。その中で登場する三条西家の話題は、詞書と絵の両面にわたり、極めて重要な位置を占めることは明らかであろう。本研究はまた、二尊院と三条西家、三条西家と狩野派との関わりを浮き彫りにすることができるものと思われる。また、三条西家と絵巻ということに注目すれば、絵師土 谷 真 紀
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