鹿島美術研究 年報第26号
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植民地期朝鮮における日本人の朝鮮陶磁研究 ―淺川伯教・巧の活動を中心に――61―研 究 者:大阪市立東洋陶磁美術館 学芸員  樋 口 とも子〈目的〉本調査研究では、植民地期の朝鮮半島における日本人の朝鮮陶磁研究と陶磁器制作について、淺川伯教・巧兄弟を中心に、その活動の実態を調査し、日本近代陶磁史に与えた影響を明らかにすることを目的としている。〈意義・価値・構想〉韓国の陶磁史研究において、植民地期の日本人による朝鮮陶磁研究はその基盤として今も大きな影響を与えている。この先導者となった淺川兄弟と柳宗悦の業績は、多くの先行研究によって明らかにされ、植民地期のイデオロギーに対抗し文化遺産の研究と保存にあたった彼らの姿勢は、日韓両国において再評価されている。しかし、これは日本において韓国併合とともに起こったいわゆる“朝鮮美術ブーム”の実態を示すものではなく、柳らの活動方針とは異なる商業的あるいは植民地政策的に時代の要請と複雑に絡んだ全体像とは、切り離されたものである。また日本の近代陶磁界においても、柳とともに民芸運動に関わった河合寛次郎や、高麗茶碗に影響を受け朝鮮で窯焚きも行なった川喜田半泥子など、当時を代表する近代陶芸家の制作活動において朝鮮陶磁の影響は大きかったにも拘わらず、この日韓近代陶芸史の接合点について、日本近代陶芸史の側からの研究は行われてこなかった。そこで本研究において、植民地期朝鮮における日本の朝鮮陶磁受容の全体像を明らかにすることは、以下の意義と価値を持つと考えられる。1.植民地期の朝鮮陶磁に関する出版物を収集整理し発表することは、勃興期の朝鮮陶磁研究の実態が明らかになるばかりでなく、多くの日韓近代史研究者にとって有用な研究資料となる。2.その掲載図版や写真を整理することによって、当時まで豊富に残されていた文化財の作品例を把握し、現在の韓国陶磁史研究に活用することができる。3.半泥子ら近代陶芸家は、茶碗研究を基盤とし、朝鮮陶磁を研究し現地で制作も行った。そこで朝鮮の陶工たちとの有機的な関係を明らかにすることで、被支配者への伝達という図式化の強い植民地時代の日韓芸術史研究に新たな側面を加えることができる。

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