鹿島美術研究 年報第26号
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日本の植民地統治下の美術活動―62――植民地官展作家と審査員の作品の調査研究を中心に―研 究 者:福岡アジア美術館 学芸課 収集展示係長  ラワンチャイクン 寿子日本統治下の朝鮮半島、台湾などの美術活動は、官展においてのみ展開したわけではない。在野の美術団体もあり、官展のアカデミックな様式とは別の表現様式を模索する作家も存在し、日本の同時代の美術活動や作家と何らかの関係をもっていた。一方、20世紀前半には、多くの日本人作家がアジアへ、オリエンタリズム的関心から旅行し、仕事のために滞在し、従軍によって渡っている。将来的には、これら全体を見わたした研究や様々なレベルで作られた作品の調査、整理が望まれる。だがここでは、日本の植民地統治を背景とした美術活動がどのような構造の上に行われていたのかを確認して考察を進めるため、朝鮮美展、台展・府展を軸に満展も視野に入れ、これらの運営に関する調査研究、そして活躍した作家の作品(東洋画、洋画、書、工芸、彫刻)と、審査員となった日本人作家(帝展や文展の重鎮)が朝鮮半島や台湾あるいはアジアへの関心から制作した作品(ともに1945年以前)を対象にした調査研究をおこなう。植民地官展に絞ることで、日本、朝鮮半島、台湾、そして満州における美術活動を俯瞰しながら、それらに共通する問題とそれぞれに特有の問題をより明快に提起し、将来的な議論のきっかけを作りだそうと思う。さらに、当時の文脈にたちかえり、日本が植民地とその官展に求めた課題と期待や願望(または欲望)を、それに直面して制作しなければならなかった植民地の作家の制作の実情を、作品の表現や当時の言説に求めることで、帝国日本によるアジア表象、それに同調あるいは抗して生まれる植民地アイデンティティの模索などを具体的に見ていこうと思う。さらに、本調査研究で得られた情報を基に展覧会を開くことで、成果をひろく社会に還元できると考えている。なお、本調査研究は、個別におこなわれている研究をつなぎ、また地元の学芸員や美術史研究者、学生がアジア近代美術への理解を深めるためにも有用であると考えている。そのため、専門家を招いての研究会は、地元の学芸員や研究者、学生が参加できるかたちで行う。展覧会の企画開催も、韓国や台湾との共同を目指すものである。

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