鹿島美術研究 年報第27号
28/106

な審査を経て次の2名の受賞者、そして2名の優秀者が内定し、2009年3月10日開催の理事会によって決定されました。以下にその受賞理由を申し述べます。《日本・東洋美術》財団賞受賞者 楢山満照「四川省雅安市高頤闕にみる漢代儒教図像の地域的展開」優 秀 者 岡本明子「室町期の障屏画における和漢混淆古代中国において、祠や陵墓の前方に建造された石造の闕(扉を欠く門柱)は、現存する中国最古の建築物として貴重な文化財ですが、その楼観部と呼ばれる部分に施された浮彫りレリーフは、中国古代絵画のもっとも重要な資料の一つです。中国国内に現存する三十数点のうち、三分の二以上が四川省に遺っています。楢山満照氏はそのうちの一つである雅安市の高頤闕に焦点を当てました。造営年代がほぼ確定できる上、保存良好で、そこにはたくさんの図像が彫られているからです。これまで、石闕上の図像については、観る者に対する勧戒的作用を期待したものと考えられてきました。あるいは、儒教の聖人賢者にもなぞらえうる墓主の道徳的なすばらしさを表現したものと言われてきました。楢山氏はこれらの指摘を認めた上でなお、神仙的なイメージをそこに読み解き、重層的な構造を明らかにしました。とくに詳しく分析されるのは、中心をなす「周公が成王を輔ける図」です。図像を丹念に解析し、ほかの遺品と比較します。そして、周公に勝るとも劣らない忠孝の実践を通して、みずからも周公と同じように仙境へ昇りたいという造営者の願望が証明されていくのです。楢山氏はこれを「歴史故事に天の感応を仮託する用法」と呼んでいます。『捜神記』など、文献操作がみごとな点も特筆されるでしょう。楢山氏はあくまで、四川地域の石闕に限ったケーススタディーであると謙遜されています。しかし漢代美術の理解にきわめて有効な視点であることは疑いないでしょう。このような点から、第16回鹿島美術財団賞にふさわしい研究者として、もっとも高い評価を得たのです。また優秀者には、岡本明子氏が選ばれました。氏はサントリー美術館に所蔵される伝土佐広周筆「四季花鳥図屏風」を中心主題に据えました。重要文化財に指定されているにもかかわらず、筆者についても漢画系、やまと絵系の両説が唱えられる―伝土佐廣周筆『四季花鳥図屏風』をめぐって―」― 14 ―

元のページ  ../index.html#28

このブックを見る