― 26 ―③ 中世社寺建築における細部意匠の美術史的研究た。しかし現在、長崎県美術館が収蔵するコレクションは500件である。日本に持ち帰ることのできた作品の大部分が長崎県美術館に収蔵されていることを考えると、その他の1,200件以上の作品が現在もスペインに残されているのである。これを明らかにしていくことが今回の調査の主な目的となる。須磨は第二次大戦後、A級戦犯となったため、作品を持ち帰ることができなかった。早々に帰国せざるを得なかったのである。スペイン政府に強制買上げされた作品、あるいはそれを免れて日本に運ばれてきた作品、様々である。1,200件以上もの作品が現在どこに所蔵されているかを全て明らかにするのは至難の業である。しかし、当時須磨が作品撮影した写真、及び台帳に書き残した題名、作家名などから作品はある程度特定できる。当面の目標としては、1,760件の作品の全ての画像を入手して、須磨コレクションの全体のデータベースを制作し、スペイン美術研究者たちとその検証をしていきたい。その後の目標としては、そのデータベースを基に、スペイン国内に所蔵されているであろう作品の行方を追い、実物の作品がどこに所在するか少しでも究明できればと考えている。それによって当時の須磨コレクションの全体像に近づけるよう再現を目指す。研 究 者:秋田公立美術工芸短期大学 産業デザイン学科 教授研究分野は、大局的には日本建築様式(美術史)の研究であるが、特に日本古建築の細部形式手法(意匠)の詳細なる研究が主たる研究対象である。日本建築史の本格的な研究は明治20年代の半ばから、故伊東忠太・関野貞両博士によって日本古建築の東洋建築史上に於ける系統及び様式が解明され、日本建築史の大綱が確立した。その後、昭和初年に入って第2期的発展の段階に入り、文献的資料の詳細な研究、住宅建築史の再検討、伽藍配置の研究、建築制度史の研究、さらには近年、民家史の研究等が進展して今日に至っている。一方、明治30年(1897)に『古社寺保存法(現・文化財保護法)』が施行され、古 澤 田 享
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