鹿島美術研究 年報第27号
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― 32 ―⑨ チャールズ・ワーグマンの個人様式の具体像を問う─明治洋画・来日外国人・報道/芸術─研 究 者:神奈川県立歴史博物館 学芸員  角 田 拓 朗本研究の構想は先の調査からなる具体的な作品論と、それに裏付けられ展開される意味論の、大きく2つの柱がある。特に後者について述べ本調査研究の目的と意義について言及する。第一の目的と意義だが、それは明治洋画の展開をより具体的に記述することにある。ワーグマンの技術が明確になるということは、その弟子であった五姓田義松、高橋由一らに伝えられた技術内容が具体的になることを意味する。明治洋画が来日外国人に先導されたことは疑いなく、彼らの技術や思想あるいは趣味といったものを真面目に学ぶことが、最初期に洋画を学ぶ彼らの意識だったにちがいない。故にワーグマン像の具体化が明治洋画の具体化につながると考えられるのである。続いて第二に、ワーグマンの存在あるいは輪郭がはっきりとすることでワーグマンではない“誰か”の存在が浮かびあがることが期待される。ワーグマンの作品で超絶技巧という類のものは少なく、そのため贋物が少なからず流通している。それらの断固とした排除も重要だが、中には注意したいものもある。それはワーグマンと同時代に制作された可能性が残るものである。この時予想される回答はワーグマン以外の同時期の来日外国人が制作したというものである。この仮説が証明されることで、幕末明治の文化状況、歴史の厚みが見えてくるだろう。第三に報道と芸術の関係性への問題提起となることが期待される。報道画家として来日したワーグマンは、弟子の義松らには芸術家の意識を伝えていたとも推定される。報道と芸術の差異に関する外国人の理解を、日本人はどう受け止めたのか興味深い。特にユーモアを売りとした『Japan Punch』が芸術との距離において如何に理解されていたのかを探っていくことは、現代のメディア論を援用することで、その時代状況を知るのにより示唆的なものになると期待される。

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