― 36 ―⑭ 宗教改革期ニュルンベルクの農民祝祭版画の研究─デューラーとその弟子たち─博士論文の一部に組み込まれる予定である。研 究 者:山形大学 人文学部 教授 元 木 幸 一ニュルンベルクは、画家・版画家デューラーをはじめとして、木彫家シュトース、石彫家クラフト、鋳造家フィッシャーなど、多様なジャンルで代表的な芸術家を輩出したドイツ・ルネサンスの中心都市である。申請者は、20年ほど前から、15〜16世紀のニュルンベルク芸術をデューラー、シュトース、クラフトなどの作品を取り上げて分析し、都市と芸術の関係を具体的に考察してきた。その際無視することのできない重要な歴史的事件が宗教改革であった。1525年市参事会は宗教討論会を開催し、ルター派への改宗を決定したのである。その改宗が芸術にどのように関与したかは、以前、シュトースの《バンベルク祭壇》やデューラーの《二皇帝像》の受容の変遷を分析することで具体的に考察することができた。しかしながら受容が美術制作にどう関与するかの考察が欠けていることが気になっていた。そこで本研究では、1525年以後に多数制作された農民祝祭版画を取り上げて、宗教改革後の芸術制作と受容の様相を考察する。版画を取り上げることで、富裕層だけでなく、中流市民層の芸術受容とその制作への関与のあり方を考察することができる。さらに、宗教改革最盛期には、露骨なプロパガンダとして制作されることの多かった版画が、受容の変化に応じてその内容や判型を変化させて行く過程を理解することができよう。鑑賞される版画が誕生したのである。本研究は、その芸術受容と制作の大きな変動を、宗教改革後ニュルンベルクの農民版画というミクロ的な視点から解明することを目的とする。
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