― 38 ―⑯ 宮川派の総合的研究⑰ 官展系洋画の研究 ─岡田三郎助と和田英作─研 究 者:学習院大学大学院 人文科学研究科 博士後期課程 稲 墻 朋 子本研究の最大の意義は、これまで解明されてこなかった宮川派の活動内容の全体像が明らかになることである。浮世絵界の巨匠の一人に数えうる長春の基礎研究を遂行し、さらに個々の絵師たちの画業を詳細に掘り起こすことで、それぞれの特色や流派内での役割分担、及び同派の運営形態の内実が判明すると考えられる。また、錦絵創始以前に没した長春と、その後も活動を続けた春水の活動双方を考察することは、大きな変化を迎えた浮世絵界の様相、またそれに直面した浮世絵師たちの在り方を探るうえでも示唆に富む。宮川派自体は有名な流派であり、とくに長春については評価も高く現存作品も少なくないが、個々の作品研究をはじめ、その画業は依然として不明な部分が多い。風俗画を中心にすぐれた肉筆画を多く制作した菱川師宣に私淑し、長春と同時代に肉筆美人画の分野で活躍した懐月堂安度からも影響を受けて確立された長春の絵画様式は、その完成度の高さから人気を集めた。長春作品の総目録を完成させ、画風変遷や様式的特徴を指摘し、彼の画業を適切に評価する意義は大きい。弟子たちに関する研究は皆無に等しく、概論のみに留まっている感があり、各絵師の伝記を整理し、作品の詳細な検討を通じてその重要性を主張することは必須である。例えば弟子たちの作品には、画面形式や画題の面で長春との相違点が指摘できるほか、弟子間でも現存作品数や画風に差異がみとめられる。宮川派の例を通じ、肉筆浮世絵を専門とする流派の在り方を示すことが可能であろう。さらに、富裕層の顧客を抱えていたと推定される長春を筆頭に、大名や豪商といった上層階級との繋がりを探ることは、浮世絵の多面性を再認識する助けとなろう。本研究により、宮川派に対する当時の評価や、浮世絵界での位置付けが明確になることが期待される。研 究 者:石橋財団石橋美術館 学芸員 植 野 健 造この研究の目的は、官展系の重要な洋画家である岡田三郎助(1869−1939)と和田
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