― 39 ―⑱ 中近世移行期における伊勢物語絵の図様展開に関する調査研究英作(1874−1959)の二人の画家の基礎となる資料を集成することにある。そのことは、先行研究者の成果を継承し、次世代の研究者に引き継ぐことであると考える。基礎資料が広く研究者のあいだで共有化されれば、二人の画家の研究はもちろん、日本近代美術史におけるアカデミズムの功罪について、より活発な論議が可能になると考える。資料のデジタル入力化の作業は、学生研究者や外部専門業者に委託し、印刷されたものとデジタル化されたもの(DVDなど)をまずは研究者に配布し、資料の共有化をはかりたい。並行して、デジタル化された資料はインターネット上で公開したいと考えている。一方で、資料集の公刊についてもその方法を検討し実現したい。研 究 者:(独)東京文化財研究所 企画情報部 研究員 土 屋 貴 裕本調査研究は、やまと絵、そして物語絵としての伊勢絵の図様展開に関する分析を起点として、中近世伊勢絵の研究深化を目指す。その成果を踏まえ、やまと絵画派における図様・粉本継承の問題を、伊勢絵研究の視点を切り口として考究したい。ただし、古代、および中世前期の伊勢絵の事例は少ない。また、現存する伊勢絵は正系の絵師によらない作例が多く、その系統分類において軸となる作例を見出すことが困難だった。そのために、伊勢絵の伝統について十分に解明されていない点も多い。従って本研究では、中近世移行期、すなわち中世後期から近世初頭に時代を絞って、伊勢絵の作品資料を調査・収集し、研究を進める。具体的には、室町時代後期に土佐光茂工房において制作されたと考えられる鉄心斎文庫所蔵「伊勢物語画帖」の分析を起点に据える。鉄心斎本は、絵所預である土佐派制作の作例として、中世、さらには近世伊勢絵の伝統を考える上で核となる作品と考えられる。鉄心斎本はこれまで本格的な研究の対象とされることがなく、展覧会等に出陳されることも稀であった。本作に関する基礎的な考察と美術史的な位置付けについては『美術研究』399号(2009年12月刊行)に掲載するが、本研究は鉄心斎本の研究を発展的に継承しながら、上記の諸問題を明らかにすることを目指す。本調査研究では、鉄心斎本と図様を共有する国内外の作例の調査と写真資料の収集を行い、それに基づいた全段にわたる場面選択、細部モチーフの比較を試み、これま
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