鹿島美術研究 年報第27号
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― 40 ―⑲ 中世大和絵における花木表現の研究で十分になされてこなかった中世−近世にかかる伊勢絵の系統を再構築する。その上で、鉄心斎本の図様の影響を強く受けた住吉如慶筆の伊勢絵に着目し、土佐派−住吉派間における、絵手本・粉本を通じたやまと絵主題の図様の継承の問題について考察を深めたい。研 究 者:玉川大学 芸術学部メディアアーツ学科 教授  加 藤 悦 子中世大和絵屏風は近時、発見が相次いだが、その大多数の作品については制作年代・作者の問題の解決をみていない。また作品相互の関連にも、未解決な側面が多く残されている。今後、制作年や作者の同定し得る絵巻・冊子本・掛幅縁起絵などとの比較検討によって、これらの問題の解決が図られていく可能性は高い。しかし一方で、今回提示した多面的なモティーフの考察によって、これらの問題解決へのアプローチを図ることも有効な方法と考えられ、かつ多様なアプローチによる成果は、結論の客観性を増大させることになろう。またこのようなアプローチでは、様式と意味を有機的に連関させて考察する必然性が高いと考えられ、それは美術史の普遍的な課題に対応したものといえよう。次に、研究対象の中心である「四季花木図屏風」は、中世大和絵屏風の中でも制作年代が早く、かつ正統的な作例であると目されているところから、当該時期の基準作となり得るものである。土佐光信に代表される当時の大和絵は、宮廷絵画として育成されてきた大和絵の最後の頂点であり、かつ転換点と考えられ、古代及び近世の絵画史を考える上でも極めて重要である。さらに花木という、日本のみならず東アジア絵画における普遍的な題材のイメージ研究は、より広範な研究テーマに連動することが可能である。またこの題材は、本来装飾性と深く結びついており、すなわち日本美術の特質として従来指摘される「かざり」の問題を視野に入れて、考察を進めることになる。以上、本研究は一作品の個別研究に留まらない課題を内包していると考えられ、その成果の波及効果は高いと推測される。

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