鹿島美術研究 年報第27号
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注1 大久保純一「戯作挿絵の風景表現」(『江戸文学』19、平成10年)17頁。― 46 ―㉕ 屏風形式の酒呑童子絵に関する総合的研究に書き込まれた文字情報は、黄表紙画面の構成要素である本文、セリフに直接的に関わる場合もあることについては初期の黄表紙に関する研究において確認済みである。従ってその推移を追うことは、黄表紙の本文、セリフ、挿絵という主要な要素の関わりを明らかにすることにつながるのである。イメージとテクストの連関という、黄表紙の本質に関わる部分から離れることなく、黄表紙挿絵表現の推移を追うことが可能となるという点において、本研究は高い価値を有すると考えられる。また本研究は、黄表紙というジャンルにとどまることなく、そこに見られる文字情報に関わる表現が、一枚絵を始めとする他の浮世絵の分野といかなる関わりを有しているのかという問題を明らかにすることを究極の目的としている。この点において、従来一枚絵の研究を中心として考察されてきた浮世絵イメージの成立過程に新たな光を投げかけることが可能である。さらに申請者は、本助成による研究を踏まえ、全盛期の後に続く寛政改革期、そして末期における黄表紙挿絵が画中の文字情報とどのような関わりを有しているかについて考察を進めるという構想を抱いている。文字情報を手がかりに黄表紙挿絵の表現の時代による変化を明らかにするという、この全体構想が実現されることによって、黄表紙挿絵のみならず、浮世絵イメージ全般の解明に大きな役割を果すことが期待できる。その中において黄表紙の歴史の中核を担う全盛期を対象とする研究は、きわめて重要な価値を有していると考えられる。研 究 者:学習院大学大学院 人文科学研究科 博士後期課程  岡 本 麻 美本説話の研究を牽引してきた国文学の側からは、昨今、本文系統とは別に、絵画の側からその変遷を追うことが望まれている(斉藤研一「絵画史料と文学史料─酒呑童子物語を題材に」『中世文学研究は日本文化を解明できるか』笠間書院、2006年等)。直接的な付随テクストを持たない屏風形式の作品の分析は、これに答えるべきまさに美術史の側から先導すべき題材として相応しいものであろう。本研究の構想と意義は以下の点である。まずは、①酒呑童子絵屏風作品の博捜と、現存作例の基礎調査を行うことで、これまでほぼ未紹介であった各個別の作品研究を進めていく。作品がリス

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