― 47 ―㉖ ベルト・モリゾの描く母子像ト化されることで、作品間の比較も可能となり、さらに酒呑童子絵屏風及び酒呑童子絵の展開という体系的テーマ研究も、相互補完的に成すことができよう。そして②屏風というメディアの形態に注目することで、絵巻から屏風へという異なるメディア間の往還が、物語内容にどのような変容を与えたか、という説話全体の問題を考察する。絵巻として多く造形化されてきた本主題は、屏風形式として描かれるとき、画面の制約上どの場面を取捨選択、または合成し、如何様に配置するかといった図様の改変を経ている。それは絵師による造形上の工夫もさることながら物語をどのように理解するか、という説話の受容態度が表出したものでもあろう。そこにはテクストのみならず、絵画が物語の進化を主導していく様が読み取れるはずであり、近世における本説話の受容のあり方も明らかになるだろう。さらに、③同一主題をめぐり、同時代の異なる流派の絵師が、どのように図様を展開させたかという動向にも注目したい。狩野元信筆「洒伝童子絵巻」(サントリー美術館蔵)の粉本を継いだ正統の狩野派による作例から、それを摂取した町絵師、また大胆な場面の取捨選択を行っている浮世絵師の手になるものなど、当屏風をめぐっては、絵師の流派的枠組みを超えた主題理解を比較探究することとなるだろう。以上を通じた成果は、今まで触れられる機会の少なかった作品へと美術史学の視野を広げるだけでなく、国文学研究など、中近世における物語絵画の受容に関する隣接諸分野の研究へも新たな研究関心を拓くものであると期待される。研 究 者:お茶の水女子大学 文教育学部 アカデミックアシスタント申請者はこれまでの研究において、ベルト・モリゾを通して、言説および視覚表象を通した「女性芸術家」のイメージの形成過程を明らかにするために、19世紀フランスにおける女性芸術家に関する諸制度を再考してきた。19世紀末のフランスは、女性芸術家を取り巻く美術教育制度・美術教育史に大きな変化がもたらされ、彼女たちが社会的運動に関わり始めた時期であり、その後の大きな転換点となっている。モリゾはその時代において前衛である印象派に所属したため、当時においては主流を占めるアカデミスムの女性芸術家とは一線を画した存在であったために、同時代の女性芸術 林 有 維
元のページ ../index.html#62