― 48 ―㉗ 七世紀後半期から八世紀初頭における東アジア舎利信仰関連遺品の比較検討家の属したコンテクストの中で論じられる機会が少なかった。よって本研究において、旧来対立構造の中で捉えられていた女性芸術家達を、同時代の枠組みの中で関連させて検証し、言説および視覚表象を通してモリゾ像を再考する点に意義がある。同時代に活躍した女性芸術家については、Tamar Garb, Sisters of the brush : women's artistic culture in late nineteenth-century Paris, New Haven, 1994(邦訳『絵筆の姉妹たち 19世紀末パリ、女性たちの芸術環境』、味岡京子訳、ブリュッケ、2006年)という著作で検証され、モリゾが生きた時代の女性芸術家が抱える問題が明らかになってきているが、この研究を踏まえた上で更なる考察を試みたい。具体的には、モリゾが描いた一連の母子画を通して、表象分析と批評分析を試みる。19世紀末の第三共和制下において、普仏戦争とパリ・コミューンにより減少した人口を回復するためにも、「家庭」はクローズアップされ、「母と子の絵画」はもっともポピュラーなテーマの一つであった。アカデミスムの女性芸術家も取り組む機会が多かった母子画を取り上げ、モリゾの母子画と比較検討することで、両者の相違点を挙げることができると考えられる。今まであまり調査されてこなかった、同時代の女性芸術家の作品に関する表象分析と批評分析を並行させることで、彼女達のスタンスや様々な矛盾を浮かび上がらせ、新たなモリゾ像を読み解き、女性芸術家関連の研究を深化させていきたいと考えている。研 究 者:京都大学大学院 文学研究科 博士後期課程 田 中 健 一東アジア世界にあっては、舎利の所有が仏法の正統性、ひいては王権の正統性を内外に示し、国家の長命を保証する機能を担ったことが、近年しばしば指摘されている。舎利信仰に関わる造形遺品は、それを制作した国家の国土観、皇帝観、系譜観を映す指標となることが期待され、また、広く東アジアにおける造形作品を比較検討し、日本古代仏教美術史における大陸美術の受容の問題を考察する際の大きな指標となることが期待される。その様な在り方が端的に表れることが予想されるのが、七世紀後半期から八世紀初頭に中国において権力を担った則天武后の事績であり、則天期の造形遺品に関する調
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