鹿島美術研究 年報第27号
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― 50 ―㉙ 芦 屋市立美術博物館寄託「具体美術協会」資料の書簡・映像を中心とした体系的整理と分析の闇にまつわる表現の意味するところについて出来る限り明らかにしていくことを目指している。また、16世紀から17世紀の、いわゆるバロック期に西欧において流行を見たこのテネブリズムの現象は、意外な様だが決して日本とも無縁でないことも指摘しておきたい。明治期以降、西洋絵画と接触した近代洋画家のなかには、山本芳翠をはじめ、日本のテネブリズムとも言うべき、明暗表現を試みた一群の画家たちが現れた。最初それは絵画技術の誇示としての側面が強かったが、高野野十郎にいたっては明らかに何らかの思想性を秘めた画面となっている。申請者は現在勤務先の美術館で、日本の古典絵画受容とその影響に焦点をあてた展覧会「日本のバロック展(仮題)」を準備中であり、この研究が、日本近代絵画におけるテネブリズムを理解する上でも大きな助けとなると考えている。研 究 者:芦屋市立美術博物館 学芸係長  加 藤 瑞 穂具体は、日本で戦後美術史を語る上では不可欠な前衛美術グループと見なされている。それと同時に海外でも、世界的な視野に立って戦後美術の動向を検証する際には必ず言及されるグループである。1954年から1971年の18年に及ぶ活動の中でこれまでもっとも注目を集めてきたのは、従来の絵画・彫刻の概念に当てはまらない実験的作品を野外や舞台で立て続けに発表していた、結成から1957年に至る時期であり、次いで来日したフランスの批評家によって評価され、発表の場を国外へと広げて行った1957年から1960年にかけての時期である。前者の作品は、パフォーマンスやインスタレーションの先駆的作例として取り上げられることが多く、資料の貸出や閲覧もこの時期のものに集中している。また後者の作品は、同時代の欧米の作品との関係を探る上で重要視されると同時に、絵画へと収斂していった具体の活動の是非をめぐる議論でも、考察の中心的位置を占めている。しかし、このように注目される度合いが高いにもかかわらず、多くの場合展覧会や書籍で取り上げられる作品・資料は限定的で、具体の多面的な実像にまで踏みこんだ研究はごくわずかである。この度の研究では、書簡、映像の重点的な整理・分析を通して、ステレオタイプ化

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