― 56 ―㉟ ボヘミア・ゴシック絵画の研究 ─《トゥシェボン祭壇画》の様式生成─【目的】《トゥシェボン祭壇画》の画家は、W. ピンダーをはじめ多くの美術史家から、天才の称号を与えられて来た。彼の芸術的個性は、西方フランスのゴシック美術、世紀中葉にボヘミアに流れ込んだ新しいイタリアの美術、そして新たに勃興しつつあったフランドルの美術、これらの独創的総合の上に成り立つ。その造形的特質は、リアリスムとイデアリスムの形体的統一、場面と空間の視覚的統一であると言われる。その生成過程には、当代の様々な国際的影響関係が認められるものの、しかし究極的には画家が、プラハの宮廷美術の伝統に鼓舞されていることがこれまで指摘されて来た。そこで本研究は、従来の研究を批判的に整理しながら、ボヘミア・ゴシック絵画の様式的発展という観点から、画家の様式生成について熟考することにしたい。具体的な目的は、14世紀北方モニュメンタル絵画の宝庫であり、プラハ宮廷派の主要作品群である《カールシュテイン城の壁画と板絵》を《トゥシェボン祭壇画》と比較検討し、画家の初期様式を浮き彫りにすることにある。【意義】上述の研究目的が首尾よく達成されれば、本研究の意義は次のようである。つまり、《トゥシェボン祭壇画》の画家の様式的起源、そしておそらく彼の画業の始まりは、カールシュテインの絵画工房に存したであろうことである。そして、この推定が十分な蓋然性から導かれれば、非常に複雑なカールシュテイン絵画の帰属、編年にも新たな地平を開くことに違いない。したがって、本研究は《トゥシェボン祭壇画》の画家の個別研究のみならず、ボヘミア・ゴシック絵画の全発展に関わるものである。【構想】研究に当っては、特徴的な造形要素、以下三点を個別に比較分析する必要がある。① 構図と空間の表現─トゥシェボンの画家は、非凡な構図家である。彼を特徴付け浄土を建設した。本調査研究で私は、このことが平安時代にも受け継がれ、同じように藤原家では天皇や皇帝に匹敵する権力への志向と西方浄土への憧れから、鳳凰堂を建立したことを明らかにしたい。研 究 者:東京藝術大学大学院 美術研究科 博士後期課程 大 野 松 彦る独創的な斜線構図の構成原理、岩山風景と建築空間の先駆的表現を調査する。
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