― 57 ―㊱ インド寺院建築における入口装飾の研究② 人物像と着衣の類型─画家はまた、14世紀末に生じる「優美様式」の創始者の一人である。理想的かつ写実的な顔貌を持ち、細長く優美な人物像、律動的に翻るカリグラフィックな衣紋線、これらを一世代前の柔軟様式、同時代のフランス絵画と比較検討する。③ 色彩─この画家は最後に、偉大な色彩家として知られる。劇的な陰影法、肉付けの微かな色調と突起部に当てられる透明な光、色彩の表現的かつ象徴的使用、これらを分析する。研 究 者:愛知学院大学 非常勤講師 平 岡 三保子入口装飾は寺院にとって重要な建築要素であるため寺院建築研究の総論では必ず言及されるものの、それを単独で系統的に扱った先行研究は数少ない。かつてJ. G. ウィリアムズは著書『インドのグプタ朝美術』(プリンストン、1982年)においてグプタ時代のヒンドゥー教寺院の遺構から収集した入口装飾作例を分析し、編年考察に有効に利用した。申請者もまたアジャンター石窟寺院の入口装飾に関する論考を通して寺院建築構造における入口装飾の重要性と、その表現形式が編年研究において果たす役割の大きさを再認識することとなった。しかしそれ以降入口装飾研究への取り組みはほとんど見られず、その装飾構成とシンボリズム、表現形式の成立過程など多くの面からの詳細な研究が俟たれる。かかる状況を受けて申請者はインド寺院建築の入口装飾の表現形式を分析し編年的に系統付けること、地域様式の特性を抽出すること、および個々の宗教的建造物において生じる役割と意義について解明することを重要な研究課題と考えるに至った。将来的には広範な地域、時代の入口装飾作例を網羅的に収集して比較分析を行い、包括的かつ系統的に遺跡、地域、宗教、時代ごとの造形的特徴を把握することで、その発展過程を明確に跡付けることが可能となるであろう。そうなればインド建築史および美術史における様式研究、編年研究、および諸宗教美術の比較研究にとっても極めて有益な知見と見通しをもたらすことになろう。本調査研究はそうした研究構想の一環であるが、まずは申請者のデータ蓄積が多いデカン地方の仏教石窟を出発点として同時代、同地域の諸宗教建築遺例に調査範囲を広げる。また古代インドの石窟寺院
元のページ ../index.html#72