鹿島美術研究 年報第27号
82/106

②  桃山〜江戸前期には、豊国神社や東照宮の神体のように理想化された肖像ともいえる神像彫刻が制作されたため、霊廟安置の肖像についてもその影響が考慮されること。― 67 ―㊼ 11世紀ストゥディオス修道院工房における余白詩篇写本れたであろう本尊像などに関する研究は非常に乏しい。こうした状況は平安時代以後、中世にいたるまで同様であり、平安後期には平泉藤原氏の影響が、鎌倉期には陸奥国を所領とした御家人や得宗家の影響などが考えられているが、現存する美術作例と結びついて具体的に考察できる例がほとんど無いのである。上記の状況に至った要因として、一つには実作例が限られていることが挙げられるが、それよりも地域にのこる様々な美術作例の基礎調査が不足している点が最も大きいと考える。次いで、現在の仙台地域の基盤が形成された近世期に関する研究では、状況が飛躍的に好転する。中世以前に比べて史料・実作例ともに恵まれているためであるが、『仙台市史』などにおける歴史学の成果や、美術分野では絵画・工芸分野における研究の蓄積に比べ、彫像の研究は未だ個別的・断片的な段階に留まり、他の作例や史料との関連にまで及んで考察されることは非常に少ない。近世期の彫像研究においても、やはり基礎調査が不足しているのである。仙台地域では、これまでに彫像を含む文化財悉皆調査の試みはあったものの、半ばで途絶したり、また目録化に留まって詳細な調査に至っていないなど、多くの理由によって基礎調査が未だ途上段階にある。以上の現状を踏まえ、本研究では特に仙台地域にのこる宗教彫像の基礎調査を行うことで、地域の歴史を掘り起こすことを目的とする。社寺や堂・祠などに祀られる神仏像や祖師・檀越の肖像などが主な研究対象となるが、霊廟に安置される肖像彫刻についても対象に含めることとしたい。その理由は、以下の二点である。①  近世の仙台地域では、仙台藩主である伊達家に関わる霊廟が継続的に建てられ、その多くに廟主の肖像が安置されたこと。研 究 者:早稲田大学大学院 文学研究科 博士後期課程  辻  絵理子◆目的と意義 余白詩篇は本文を綴じ側に寄せることで各頁に余白を設け、そこに指示記号と共に挿絵を施す形式を持つ。レイアウトの性質上、どの頁にも挿絵を施すこ

元のページ  ../index.html#82

このブックを見る