― 68 ―㊽ 書写山円教寺創建期造像の調査研究とが出来るため、各写本が400近くのイメージを有する。挿絵の内容は新約図像や聖人伝など多岐に亘り、それらと旧約の一部である本文との複雑な関係を説明するために、先行研究では個々の主題の意味解明が中心となっていた。本計画では、写本の実見による調査で、2写本の構成や異同を確認・分析し、挿絵のみならず頁や章ごとのレイアウト、本文と挿絵の関連を示す指示記号や、折丁の状態なども含めた全体像を踏まえて比較することを主な目的とする。挿絵を多く有する写本研究の問題として常に挙げられることだが、たとえ全ての挿絵が出版された写本であっても、図版は挿絵部分のみが拡大されたものが殆どで、本来の姿を基に研究を進めるためには実物に当たる他ない。折しも、ヴァティカン図書館の改築が終了し、2010年3月に開館する。同館は2007年6月から閉館され、調査を行うことが出来なかった。同写本の資料は乏しく、これまではモノクロのマイクロフィルムを頼りに、一葉ずつ高価なカラー図版を取り寄せるほかなかった。また、『バルベリーニ』は、殆どの挿絵に後の手で重ね描きがされており、マイクロフィルムは勿論、カラー図版でも観察の困難な箇所が多くある。よって、ヴァティカン図書館におけるまとまった期間の実地調査は、重要かつ不可欠なものである。また、フランス国立図書館所蔵の、9世紀の余白詩篇『パリの20番』(Cod. Paris. gr. 20)と、2写本と同じ11世紀ストゥディオス修道院工房制作であることが知られる四福音書『パリの74番』(Cod. Paris. gr. 74)の調査をすることで、複数の視点から2写本の分析を試みたい。◆構想 2写本の比較にあたって特に注目すべきは、写本全体の図像プログラムと改変箇所である。総合的なプログラムはそれぞれの特徴を浮彫りにし、『クルドフ』から2世紀を経て採用あるいは改変された図像は、両者の前後関係を推測する手掛かりとなるであろう。これらを、顔料の剥落や重ね描き、後世の切り取りや製本時の綴じ間違いに惑わされぬよう、実物を慎重に調べて比較検討する。研 究 者:文化庁文化財部美術学芸課 主任文化財調査官 奥 健 夫円教寺の創建された十世紀後半は、和様彫刻と今日呼ばれる彫刻様式が出来上がってゆく起点となる時期であり、またそれは仏像の造り方における寄木造の成立と軌を一にしている。さらに一部の仏師の名声がこの頃以降、喧伝されるようになることも
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