― 71 ―■ 十九世紀末英国における産業デザインとジャポニスム─幕末・明治の美術工芸の影響を中心に─研 究 者:日本女子大学大学院 人間社会研究科 博士後期課程近年、研究書のみならず展覧会においても、幕末・明治期の美術工芸はたびたび取り上げられており、その関心や評価は高まりつつある。しかしながら、こうした美術工芸が西洋においてどのように受容・消費されたのかという点についてはいまだ十分な研究はなされていない。今日までの日本における美術史的な評価は決して高いとはいえないながらも、比較的低い価格で誰もが容易に入手することのできるこうした美術工芸こそ、西洋において個人コレクターに留まらず現地の産業デザインにも何らかの影響を残したとは考えられないだろうか。特に英国は、植民地支配を背景とした東洋趣味や装飾過剰な室内装飾の流行もあって、こうした美術品の最大の輸出国であり、幅広い需要があったことは確かである。本研究は、そうした背景を踏まえた上で、英国における幕末・明治の美術工芸の受容を考察し、それらが英国の産業デザインにどのような影響を与えたのかを検証しようというものである。これを実践するべく、まずは英国におけるこうした工芸を含む日本美術のコレクション調査及び日本美術関連の出版物に関する分析を行なう。このようにして、日本の美術工芸が英国でどのように関心を持たれ、受容されたのかを検証した上で、現地の産業デザインへの影響を見出したいと考えている。申請者はこれまでリヴァプールのコレクター、ジェームズ・ロード・ボウズに関する調査を行なってきた。ボウズは華やかで装飾的な日本の工芸に魅せられ、自身のコレクションをもとに英国初となる私設日本美術館を創設している。彼はこの美術館創設のほかにも、『日本の陶芸』をはじめとする研究書を出版するなど、その紹介に大きく貢献した人物である。同様に、『日本の陶芸』の共著者であり、同じく日本美術のコレクターのジョージ・アッシュダウン・オーズリーもまた、こうした工芸をもとに『日本装飾誌』や『装飾図案家実践』といった著書を発表している。とりわけ後者は画家や装飾家に役立つよう実用に徹して制作されたもので、当時の産業デザインに何らかの影響を与えた可能性は高い。このように本研究は、これまで手薄であった幕末・明治の美術工芸の受容と影響を 粂 和 沙
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