― 76 ―■ 絵金研究 ─新しいデータベースの構築と制作活動の実態を探る─研 究 者:香南市赤岡町絵金蔵 蔵長 横 田 恵 副蔵長 福 原 僚 子これまで絵金はその特異な作風が様々な分野から注目されながらも、研究は広く行われてこなかった。これは彼の活動が土佐という一地方でのみ展開されたことだけが問題ではない。作品のほとんどは無落款であるばかりか、その筆致から複数の絵師による合作が認められること、そして高知ではながらく絵金やその弟子たちの作品をまとめて「絵金」と呼びならわされてきたことも、絵金個人の画業が見えてきにくかった要因にある。先行研究の鍵岡正謹「絵金考」(『絵金展図録』所収、1996年 高知県立美術館)ではその生涯と画業の全貌が初めて紹介され、大久保純一「絵金─幕末土佐の芝居絵」(『幕末・明治の画家たち─文明開化のはざまに』所収、1992年 ぺりかん社)では浮世絵史研究の立場から絵金を日本美術史の文脈のなかに置き、江戸・上方文化の影響を指摘した。しかし、今後はさらに作品の一つ一つを具体的に精査していくなかで、より絵金が描こうとしたものの本質に迫る必要があろう。本研究では、これまでの調査を補完する意味での作品細部の撮影をはじめ、各地でスタイルの異なる祭礼や習俗などについての聞き取りを含めた詳細な調査を行う。この調査成果から絵金研究の基礎となるデータベースの構築を行うことによって、絵金の絵師としての独自性を見いだす。そのうえで制作年代の推定や、文献記録に残されていない職人絵師たちの活動実態を明らかにすることが必要となる。この研究はおそらく、幕末土佐の民俗や芸能史にも新たな一面を提示することになり、改めて絵金が幕末の民衆社会に果たした役割に迫ることができるだろう。こうした絵金研究の進展は、一地方の歴史のみならず近年再評価が次々となされ、一時期絵金とも師を同じくした河鍋暁斎ほか、時代の転換期に活躍した多くの作家の研究にも寄与するものと考える。
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