― 77 ―■ 大津絵再考 ─近世・近代における大津絵評価の変遷をめぐって─研 究 者:関西大学大学院 文学研究科 博士後期課程 谿 季 江これまでの大津絵研究の第一人者と言えば、柳宗悦の名が挙げられる。柳が大津絵に美的価値を見出し、「民藝」として評価したことにより、大津絵は美術史の分野において、研究対象として取り上げられることになる。こうした経緯を考慮すると、大津絵研究における柳の功績は非常に大きいと言える。しかし、柳以降、大津絵研究の多くは「民藝」の枠内で終始している嫌いがある。近年、信多純一氏によって、大津絵と絵馬との関連が論じられるなど(信多純一著『祈りの文化─大津絵模様・絵馬模様─』、思文閣出版、2009年参照)、「民藝」以外の観点からも徐々に研究が進められつつあるものの、まだ十分であるとは言い難い。そのため、「民藝」のみならず、多様な角度から大津絵を再考する必要がある。その方法として、〈近世・近代それぞれの視点からのアプローチ〉は極めて有効である。なぜなら、大津絵と同時代に生きた人々の視点から大津絵を考察することによって、「民藝」が誕生する以前の近世社会における大津絵の様相をうかがい知ることが出来るからである。これらの考察を踏まえ、近代の民藝運動の中で生れた「民藝」としての大津絵の理解とその評価の変遷を考察することは、柳の大津絵論を見直し、大津絵を再考する上でも重要な意義があると言える。また、大津絵は新旧の判定が未だ困難な状況にあるが、より詳細な〈大津絵の作品分析〉を行うことにより、制作年代の新旧をある程度まで特定することが可能である。大津絵の全貌を明らかにするためにも、作品に基づく実証的な調査は欠かせない。これらの調査研究を通して、近世絵画史上における大津絵の位置づけを再考することを目的とする。
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