鹿島美術研究 年報第28号
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─1920年代日本の広告美術・『単化』式デザインの登場─」日本美術史において、応挙といえば即写生、写生といえば即応挙と考えられてきた。画家の逸話は数多く伝えられているが、もっとも人口に膾炙するのは、応挙の猪写生譚であろう。応挙が寝ている猪を写生したところ、ある猟師にこれは死んでいる猪だと言われたので、現場に戻ってみると本当に死んでいたという話である。これに対し加藤氏は、写生と対極的な位置にある粉本としての性格が応挙の写生にあることを明らかにし、その意味について考察したのである。これは江戸絵画史研究に期を画すものである。この研究の特筆すべき点として、つぎの三つを挙げることができる。西洋美術部門は、東北大学大学院文学研究科専門研究員・東北学院大学非常勤講師の佐々木千佳氏が、財団賞の受賞者に選ばれました。また、優秀者には、それぞれの部門から、神戸大学メディア文化研究センター研究員、大阪市立大学非常勤講師の竹内幸絵氏および山口県立美術館学芸員の萬屋健司氏が選ばれました。財団賞の選考理由については、河野元昭委員と私がそれぞれの部門の選考理由を執筆いたしましたので、ここで読み上げさせていただきます。《日本・東洋美術部門》財団賞 加藤弘子「円山応挙の写生図に関する調査研究優秀者 竹内幸絵「ポスターがニューメディアだった頃まず、作品自体をきわめて厳密に比較対照し、これまでとは異なる新しい評価を打ち出している点である。加藤氏は、千總本、東博本、三井本に焦点を絞り、共通する写生図をじつに詳細に比べ、その図像情報を重視し、実物に近い写実的描写かどうかは敢えて問題にしない。この革新的な方法により研究に客観性を担保する結果となった。これまで研究者が見逃してきた細部に光が当てられており、特に笹の露について、目から鱗が落ちるように感じたのは、評者一人ではないであろう。こうして、低い評価に甘んじてきた三井本が、むしろ東博本より、一次写生図浄写の可能性が高い千總本に近いという結論が導き出されたのである。つぎに、文字情報を積極的に活用している点である。先の比較においても、加藤― 14 ―─応挙写生図粉本化の意義─」

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