鹿島美術研究 年報第28号
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優秀者 萬屋健司「ヴィルヘルム・ハマスホイの室内画における芸術的展開佐々木千佳さんは、第一に、家族礼拝堂および祭壇の建造当初は、それらがともに「聖母」に献呈されるとあったのが、祭壇が献呈されて本祭壇画が制作された時点では、「復活」の礼拝堂および祭壇と称されていたこと、第二に、キリストの復活がヴェネツィアの祭壇の献呈主題になることが稀であることに着目して、祭壇画に「キリストの復活」の図像伝統から逸脱した表現やモティーフが採用された背景を、注文主と修道会の意図、および画家が育まれた絵画伝統という3者の関係の中に探った。祭壇画には、画家の父ヤーコポの素描に見られるような、昇天中のキリストを軸として真下の石棺および周囲の兵士たちからなる左右対称の三角形構図でなく、空中のキリストと地上の景物との軸線がずれている上、うずくまる裸体人物、中腰で岩に寄りかかりまどろむ兵士、立ったまま驚きのしぐさでキリストを見上げる兵士がモンセーリチェの実景とされてきた小高い丘のある風景の中に描かれている。佐々木さんは、3月25日の受胎告知の祝日をヴェネツィアの建国日とする神話が発展する過程で、同日はアダムの創造された日と重なるとして、キリストの受肉とアダムの創造のアナロジーがヴェネツィアで醸成されていたことに依拠し、うずくまる裸体人物を聖書に記されたキリストの予兆としてのアダムと見做す。そして、サン・ミケーレ修道院のあるこの島がカマルドリ修道会創始者の聖ロムアルドゥスが最初に隠遁生活を送った場所であるから背景の小高い丘には同会創設の地カマルドリの庵への暗示が込められ、祭壇画には注文主および家族の死後の魂の救済とカマルドリ会の信心の支柱をなす魂の上昇の暗示が読み取れ、復活の神秘に与りたいとする修道会およびゾルツィ家共通の願いが込められているとする新解釈を提示した。よって、鹿島美術財団賞にふさわしい研究であると判断される。サン・ミケーレ・イン・イーゾラ聖堂祭壇画)にみる図像と機能─」─イェーテボリ美術館所蔵《室内》を中心に─」ジョヴァンニ・ベッリーニの祭壇画《キリストの復活》の注文は、1475年にベネディクト会派修道会付属のサン・ミケーレ・イン・イーゾラ聖堂内に修道院長ピエトロ・ドナの許可によりヴェネツィア貴族マルコ・ゾルツィが家族礼拝堂および祭壇を建てる許可を得たことに始まる。― 16 ―

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