鹿島美術研究 年報第28号
35/100

 4.伝 統主題の変容―《キリストの復活》(ヴェネツィア、サン・ミケーレ・イン・ 発表者:東北大学大学院 文学研究科 専門研究員     東北学院大学 非常勤講師        佐々木 千 佳の距離を測り、浄書や模写とされる写生図同士の関係性を探るためにはひとつの有効な方法と思われる。その結果、「昆虫・筍図」については、千總本乙が3作品の中では最も実際のモチーフの図像情報を伝える浄書であることを再確認した。また、これまで三井本は筆勢が弱いことを理由に千總本乙や東博本乙のような写生図を写した模写図と考えられていたが、東博本乙よりも実際のモチーフや千總本乙に近い図像情報を備えていることが判明したため、千總本の系統から派生し、東博本乙とは別ルートで成立した模写図と考えられる。一方、東博本乙は従来考えられていたような一次写生図の浄書ではなく、「昆虫・筍図」の他にも模写図や重模写図が含まれていることを報告する。最後に、応挙の写生図を粉本として弟子達が模写していた実態を植松家資料や円山家蔵書印から確認し、応挙が開いた新たな視覚世界への更新と共有、継承がなされた点に写生図粉本化の意義を認め、再評価する。円山応挙の写生図は、写生の実践と粉本による模写とは決して相反するものではなく、視覚の更新・共有・継承という観点からみれば、むしろ密接に関係している行為であったことを私たちに伝えているのである。サン・ミケーレ島はヴェネツィアの町の北側に浮かぶ小島である。カマルドリ会修道院に属する同島のサン・ミケーレ・イン・イーゾラ聖堂は、1469年から1477年にかけてヴェネツィアにおける最初期のルネサンス様式で再建された。聖堂内の礼拝堂はそれ以降、ヴェネツィアの画家たちによる多くの祭壇画で装飾されることとなる。本発表では、その最初である、ジョヴァンニ・ベッリーニによってゾルツィ家の主祭壇右礼拝堂のために制作された祭壇画《キリストの復活》(ベルリン国立美術館所蔵)をとりあげる。― 21 ―イーゾラ聖堂祭壇画)にみる図像と機能―

元のページ  ../index.html#35

このブックを見る