(2011年)― 25 ―① 19世紀後半の女性消費者とそのイメージ―「母」としての消費者のイメージを中心に―研 究 者:お茶の水女子大学大学院 人間文化創成科学研究科 博士後期課程本研究は、これまでの興味関心である「消費社会・文化における女性表象」という大きなテーマを引き継ぐものである。エドゥアール・マネの作品をとりあげ、娼婦の表象という問題とともに、女性イメージを同時代の消費社会の文脈に位置づけた修士論文・投稿論文を新たに発展させ、本研究では、「消費される女性」とはまた異なる側面から消費と女性の関係性を捉えようとすることを目指している。研究の全体の構想としては、1852年創業の「ボン・マルシェ」に代表される百貨店の成長・発展により消費社会が隆盛を見せた世紀末〜1900年を中心に、当時の経済的状況を背景としながら、女性消費者のイメージを同時代の大衆イメージ・言説の比較分析をもって考察する。厳密には、母としての女性消費者のイメージの検証を念頭におきながら、女性消費者イメージ全体の中での位置づけを明確にする。そして最終的19世紀後半のフランスでは、商品経済のめざましい発展により、消費それ自体が、女性を家父長的道徳規範により定められてきた「家庭」の領域から、それまで男性のものとされてきた公的領域に出ることを許す契機にもなった。生産活動・消費活動がそれぞれジェンダー化された中にあって、とりわけ買い物という消費行為は専ら女性的なるものと結びつけられ、女性を消費の担い手とし、それは時にはしばしば粋な「パリジェンヌ」という姿で描かれることになった。本研究の大きな意義の一つは、そうした女性消費者の中でも度々立ち現れる「子どもを連れた母親」のイメージに注目し、多岐にわたる同時代の視覚イメージ・言説との比較分析を通じて、女性消費者とは何かを具体化させるとともに、当時のジェンダー構造と経済システムの関係を浮かび上がらせ、「消費社会・文化における女性表象」の新たな一面に光を当てることにある。井 方 真由子Ⅲ.2010年度「美術に関する調査研究」助成決定研究者と研究課題 研究目的の概要
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