― 26 ―② 岩佐又兵衛の故事人物図に関する研究には、第三共和制期の出産奨励の動向に見られるような、同時代の母と子をめぐる諸状況の考察を通じ、女性消費者のイメージを子どもとの関係の中に位置づけることを試みる。そのことで、今後の消費社会・文化と女性表象をめぐる研究に新たな側面をもたらし、この研究を大きく進展させることになると信じるものである。研 究 者:新潟県立万代島美術館 学芸員 飯 島 沙耶子本調査研究の目的は、岩佐又兵衛とその工房が手がけた故事人物図を取り上げ、その図様の典拠を明らかにするとともに、不明とされてきた作品の主題を探り、又兵衛の故事人物図における「伝統と創造」を明らかにすることにある。さらには、又兵衛画と芸能との関わりについても調査研究を行う。又兵衛研究は立ち遅れており、近年では時世風俗画や古浄瑠璃絵巻群について議論が交わされているものの、又兵衛の故事人物図に焦点を絞った研究はほとんどなされていない。源氏絵や伊勢物語絵、中国の故事人物などの伝統的主題は又兵衛の重要なレパートリーであり、又兵衛研究に欠かすことのできない分野であるはずだが、十分に考察されてきたとは言い難い。これは、又兵衛と同時代の画家である俵屋宗達の物語絵が「伝統と創造」という視点から、早くより盛んに研究され、図像の典拠も明らかにされてきたことと比べれば、又兵衛研究の大きな欠落点の1つと言える。また近年は「金谷屏風」のうち、「梓弓図」「官女観菊図」「寿玉仏図」が重要文化財に指定されるなど、又兵衛の故事人物図の作品価値が認められ、さらなる研究の進展が求められるだろうことを鑑みれば、本研究の持つ意義は極めて大きい。また本研究は、故事人物図を芸能との関わりという新しい観点から捉え直すことを試みる。今まで研究を続けてきた中で、又兵衛が物語絵などを描く際に能や浄瑠璃などの芸能から影響を受けていることがわかってきた。本研究は、さらにこの点を追究していく。以上のように、又兵衛の故事人物図について調査研究を行うことは、又兵衛の師事関係、画風変遷、工房制作の在り方など、その不明な画業を明らかにする上でも資するところが大きく、さらには、又兵衛の時世風俗画の図像の源泉を探る上でも、大きな手掛かりとなることが期待される。また、又兵衛がいかに古典に深い知識をもって
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