鹿島美術研究 年報第28号
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― 27 ―③ 近世彫刻史における羅漢彫像の研究④ 15−17世紀における玄宗楊貴妃図の諸問題 ―制作目的と中国画受容を中心に―〈意義・価値〉作図を行っていたかを裏付けることができるだろう。研 究 者:浙江工商大学 非常勤講師  桑 野   梓本調査研究で扱う京都・萬福寺十八羅漢像に関しては、中国の作例と比較を行い、中国明代造像史の中で評価されるべきことが指摘されている(田邉三郎助「江戸時代の彫刻」『日本の美術』506号、至文堂、2008年7月)。中国明代造像史における萬福寺像の評価と位置づけを明らかにした上で、日本彫刻史における中国美術受容の様相と、萬福寺像の影響を受けた作例を、その展開として位置づけることを、本調査研究の目的とする。加えて、萬福寺像の図像は、時代が進むにつれ、これまでの伝統的な羅漢彫像のセットに、新たな図像のセットとして認識されたようであり、(京都・金戒光明寺像、大阪・慈眼寺像など)これまで指摘されていない、近世後期の展開についても、詳細に調査研究を行いたい。日本の近世彫刻に関する研究は、近年注目されつつあり、また、近年の研究動向として、日本における各時代の、中国美術受容の研究が急速に進展し、東アジア文化圏における日本美術史を相対的に語ることが重要視されている点も注目される。このような点からみれば、中国人仏師が日本で制作したという像自体があいまいな境界線を持つ萬福寺像の研究は、これまではっきりと引かれていた、時代や国といった境界線から解放され、東アジア文化圏での美術史研究の成果として期待できる。さらには、海上交通史や対外交渉、信仰なども含めた全体の把握に努め、連関性のある研究成果を生み出したい。研 究 者:中山道広重美術館 学芸員  福 田 訓 子室町末期から江戸初期における「玄宗・楊貴妃図」の画題・モチーフの歴史的展開について個々の作品研究や画家研究の一部としてではなく、日・中間での物と人との行き来の実態を考慮し、考察・検証する。本研究ではより広範に日・中の絵画・文献

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