鹿島美術研究 年報第28号
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第1に「玄宗・楊貴妃図」の画題・モチーフの歴史的展開について、日本の資料では歴代天皇・将軍、公家・武家の蔵品目録、日記類売り立て目録、絵師ならびに書画情報の集成である『古画備考』、「玄宗・楊貴妃図」の制作をリードした狩野派に関する画伝、家譜、南北朝時代から近世初期にいたる五山詩を集成した『翰林五鳳集』、五山禅僧以外の詩文集、近世初期までの画題を網羅した『後素集』などを対象に調査する。中国画資料の調査対象文献として、『中国絵画総合図録』、『中国古代書画図目』、『故宮書画図録』などを予定している。可能な限り画題内容、画題の出典を把握するために、「長恨歌」・「長恨歌伝」以外に唐代から明・清代に作られた玄宗・楊貴妃関係の文学(「驪山行」、「温泉行」「華清宮」、「梅妃伝」、「隋唐演義」、「長生殿」、「楊太眞外伝」、「明皇雑録」、「開元天宝遺事」)も含めて調査する。このように日・中の絵画・文献資料などの博捜を進め、現存する「玄宗・楊貴妃図」だけでなく、歴史的資料にみられる「玄宗・楊貴妃図」の画題とその出典の全容把握に努める。第2にいつ、誰が、どのような形態で、何故、「玄宗・楊貴妃図」を描いたかを考察するために国内外に伝存する「玄宗・楊貴妃図」の実地調査から作者年代の比定を行い、流派別、同流派での制作年代別の場面選択の特徴、偏重、図様の年代別特徴、傾向を整理する。現在の研究段階では「玄宗・楊貴妃図」の所蔵者、注文主の情報がほとんど明らかではない。画面選択と鑑賞者の階層との関係性、画題が選択された場について検討する必要があり、これらについては画中画、日記、記録などの文献調査で補いたい。加えて、現在確認されている「探幽縮図」、狩野派模本などの二次的資料にみられる中国の美人画・宮廷風俗画などの調査により、「玄宗・楊貴妃図」の図像面における中国画受容を考察する。文献と実作品の並行的かつ網羅的調査研究により、「玄宗・楊貴妃図」の社会的役割、文化的価値を探る。画題、作例の博捜については日・中の絵画・文献資料をもとに調査する。特に本研究では、「四庫全書」電子版などで幅広く、中国文学史・絵画史文献の検索を重点的に行い、日・中の「玄宗・楊貴妃図」関係の詩― 28 ―資料を調査対象とし、「玄宗・楊貴妃図」の中国画受容を検証し、日・中間での「玄宗・楊貴妃図」に求められた役割の差違を明らかにする。それと並行して、一群の「玄宗・楊貴妃図」の作者と制作年代を検討する。これは近世における「玄宗・楊貴妃図」が、どのような人々の間でどのような役割と価値を有していたかを明らかにする意義があると思われる。〈構想・具体的内容・方法など〉

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