― 32 ―⑧ 「フランチェスコ1世のストゥディオーロ」に関する基礎資料の収集および調査研 究 者:成城大学大学院 文学研究科 博士課程後期 嶋 本 亜未子積極的に考えてみたい。特にこれまであまり行われてこなかった落款印章の分類は、扇面画ばかりでなく、芳中の琳派作品を考える上でも最も有効であると考える。これまで芳中は琳派以外の要素が多く指摘されてきたため、琳派としての芳中像については、たらし込みや太い描線、デフォルメやクローズアップといった全体的な技法面での指摘が多かった。本調査によってより具体的な分類が可能となれば、芳中の琳派解釈について理解を深め、芳中の琳派的要素が明確となり、琳派の中での位置付けもより具体的に行えるようになる。さらには江戸後期の琳派の展開として、酒井抱一との姿勢の違いなどを示していくことが可能となると考える。これまで「フランチェスコ1世のストゥディオーロ」は、ブリガンティによって、マニエリスムの最終段階としての歴史的位置づけが与えられて以来、その芸術水準の高さ、主題と構成のイコノグラフィーは、モレルをはじめとする研究者たちによって論じられてきた、しかし、36枚の個々の絵画作品、芸術家については未だ十分な研究がなされているとは言いがたい。本研究は、ヴァザーリを中心とした工房をもっと深く知るために、「ストゥディオーロ」の36枚の絵画作品一枚一枚について、現地における作品調査と、文献資料の収集、関連する素描や版画等を含めた基礎資料を作成する。本研究は、先行研究で述べられてきた「ストゥディオーロ」についての図像解釈、部屋のコンセプトについて新たな考察を加えることを主たる目的とするのではなく、特に弟子アローリが「ストゥディオーロ」の装飾にも参加したブロンズィーノとの関連でその作品様式を捉えることで、これまでの「ストゥディオーロ」研究に新たな様式分析を加える。そのため「ストゥディオーロ」に関連する素描や版画を集め、ブロンズィーノ作品と比較し、ヴァザーリ工房の芸術様式の輪郭を明確にする。本研究はこれを実践するために、まず現地において作品調査を行う。作品調査から美術史研究が始まることは当然のことであるが、作品の状態、作品の置かれた状況、設置状態などを含め、作品自体の調査を行い、それにより写真や図版では確認できない作品の特徴について特記するものとする。次に一次資料の調査を詳細に行う。「ス
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