鹿島美術研究 年報第28号
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― 34 ―⑩ 草創期の歌舞伎表現を探る ―絵画史研究と芸能史研究の複合的アプローチ―し、発生の源流を考察する研究が中心だった。近年約35年間は国内はもとより県内に於いてさえ、近現代の琉球紅型に関する新知見をまとめた論考は発表されていない。いわば主たる調査研究方法も確立されていない紅型研究に於いて、聞き取り調査を重視し、個人宅も含む埋もれた資料を辿る作業を続けて参り、学位論文で、ようやく近現代を中心とする琉球紅型の実像を少なからず明らかにすることが出来た。現在新たに、従来、染織史・宗教史・芸能史・民俗学の各分野に看過されて来た、沖縄の芸能祭祀の場に用いられる「紅型」という問題に着目した。約450年間の琉球王国時代を経た沖縄には、今なお王国時代御冠船踊の流れを組む古典舞踊や廃藩置県後の創作、王国時代の祭祀に連なる民俗芸能など、独自の芸能祭祀の文化が残されている。しかし、それらの場に用いられる染織についての考察は殆ど行われておらず、そうした従来の研究の盲点に取り組むことで、新資料の発掘のみならず、これまで伝世品そのものの特質や技法を中心に語られてきた「紅型」の、文化的背景や存在の意味について、信仰や風俗等といった文脈の中で、深くその特質を考察し明らかにしたいと考えている。研 究 者:サントリー美術館 学芸員  池 田 芙 美本調査研究では、芸能を描いた絵画作品と芸能史料を照合しながら研究を進め、とくに史料の少ない草創期の歌舞伎の芸術表現を浮き彫りにすることを目的とする。芸能は一度きりの時間芸術であるため、その具体的な様相を復元するのは容易ではない。しかし、絵画による記録と、言葉による記述の双方を視野に入れることで、より複合的な理解が可能になる。⑴ 作品調査の意義、価値出雲の阿国の舞台姿を描く〈阿国歌舞伎図〉には、京都国立博物館本をはじめ、屏風形式の大作が多く、その様式に関しても様々な研究がされてきた。一方、若衆歌舞伎役者の舞姿を描いた〈伝右近源左衛門図〉や〈大小の舞図〉については、その数の多さや所蔵先の多様さゆえ、個々の作品研究に関してはまだ手つかずの部分が多い。しかしこれらの作品群の中には、『業平躍歌』所収の歌謡の一節が書き込まれたもの

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