― 40 ―⑯ 東国所在の運慶の造像の研究 ―静岡・願成就院諸像を中心に―る検証を行う。これにより、土着性という日本文化の特質が、美術家コロニー形成という新しい現象にどの様な影響を与えたかが明らかになる。さらに海外の美術家コロニーとの比較検証を行うことで、独自の美術制度や美術の一般概念の上に西洋的「近代美術」が移植されることで美術概念の大きな変革が起きた日本近代美術の独自性が指摘されるだけでなく、そうした思想概念変革が個人存在としての美術家に及ぼした影響が明らかになる。こうして調査研究の結果導き出される考察は、作品作家のより深い理解をもたらすだけでなく、世界の美術において日本近代美術を位置づける上での有意義な視点を提供するものとなる。研 究 者:東北大学大学院 文学研究科 博士課程後期 髙 橋 沙矢佳静岡・願成就院の諸像は、表現や納入品、玉眼の使用といった造形上の特徴、さらに、鎌倉幕府の有力御家人による造像である点において、運慶の造像、ひいては鎌倉時代の仏像を理解する上で重要な作例と考えられる。願成就院諸像の有するこれらの問題点について、願主の諸像発願の事情や祈願の内容など諸像をめぐる信仰を軸として、願成就院諸像を成り立たせる構想の全体を捉えなおすこと、さらに、運慶による本群像造像における工夫の意義を、諸像の宗教的性格や願主の祈願の内容に即して解釈することが本研究の目的である。願成就院諸像に関する先行研究では、諸像の表現の成立について、主に東国の風土や、願主である東国武士の気質と結び付けて説明されてきた。それに対して本研究では、仏像とは宗教的な目的のために造られるものであるという前提に立ち、諸像の造像の事情について、願主の宗教的要請を踏まえた考察を行う。その上で諸像の表現について、願主の祈願の内容や願主が要請する仏の姿に即して、運慶がどのように表現したのか、という観点からの解釈を試みたい。また、諸像に納められた納入品や銘記を検討することで、願主の祈願に相応しい仏像を造るために運慶はどのような工夫を行ったのかという視点から、運慶の造像のあり方について考察する。さらに、願成就院諸像が武士の氏寺のための仏像である点にも着目する。願成就院諸像の造像を鏑矢として、運慶はその後も北条氏や有力御家人関係の造像に多数携わ
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