― 44 ―⑳ 第 一次ローマ居住期(1918−1925)におけるジョルジョ・デ・キリコとメタフィジカ絵画研 究 者:大阪府立大学大学院 人間文化学研究科 博士後期課程単位修得退学本調査研究の最終目的は、デ・キリコのメタフィジカ絵画を解明することである。デ・キリコのとりわけメタフィジカ絵画に関する諸研究が対象としてきたのは、おもに1910年代のデ・キリコの制作活動であった。このように1910年代がとりわけ重視されるそれまでのデ・キリコ観に対し、近年、1920年代以降の彼の作品も評価しようとする風潮がある。ただし、それはおもにメタフィジカ絵画とは切り離された形か、あるいは、積極的にはメタフィジカ絵画と結びつけない形で行われているように見受けられる。しかしながら、先述のように、1910年代前半のデ・キリコの手稿などに散見される「メタフィジカ」という語が彼の旗印として前面に掲げられるようになったのは1919年の初めのことであり、この直前に始まる第一次ローマ居住期には、メタフィジカ絵画を介した同時代の芸術家たちとの交流があったことも確認できる。そして、メタフィジカ絵画を放棄したと言われるこの時期のデ・キリコの作品群を見直してみると、1910年代のメタフィジカ絵画をなぞるように描き直したり、そこに新しいモティーフを加えたり、既存のモティーフをそれまでにない描法で表現したり、また、メタフィジカ絵画と呼ぶにふさわしい謎めいた作品を新たに生み出したりしていることがわかる。このように、第一次ローマ居住期は、デ・キリコのメタフィジカ絵画を考える上で重要な時期でありながら、それ以前の時期ほどには研究がなされていない。したがって、本調査研究のように、この時期のデ・キリコ自身の言説と彼についての他者の言説とを収集・分析しながら、当時の彼の作品を今いちど見直すことは、デ・キリコのメタフィジカ絵画の解明に大きく寄与するものと期待される。また、申請者はこれまで、おもにデ・キリコ自身の言説を分析することから彼の絵画作品を読み解くという手法で研究を行ってきた。新たに本調査研究では、デ・キリコとスクオーラ・ロマーナの互いに関する言説を踏まえつつ、双方による作品を比較分析し、メタフィジカ絵画を介した彼らの影響関係を分析する。これにより、本調査研究は、20世紀のイタリア美術史におけるメタフィジカ絵画の位置と意義を知りうる 市 川 直 子
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