― 47 ―㉓ フ ォルクヴァング美術館展示史研究:非西欧へのまなざしと「心理的親縁性」の概念をめぐってらの画風を確立・洗練させていったと考えられるのである。以上のような視点から、作品、画稿、文献資料、さらには同主題の他の絵師による作例なども参照しながら、調査研究を行う。研 究 者:東京大学大学院 総合文化研究科 博士課程 安 永 麻里絵本研究は、フォルクヴァング美術館における展示を、特に非西欧の事物がどのように解釈され、提示されたかという点に着眼して分析しようとするものである。フォルクヴァング美術館は、ドイツにおける日本美術コレクションとして最も早いもののひとつであり、日本の美術工芸品の西欧における需要という観点からも重要な意味を持つ。また、プリミティブ・アートとモダン・アートを併置した展示は革新的であり、当時のドイツの美術館人のみならず、後にニューヨーク近代美術館初代館長となり、ホワイト・キューブの生みの親と称されるアルフレッド・バー・Jrにも影響を与えており、フォルクヴァング美術館は現在もなお多くの美術館で採用されている展示形式の源泉のひとつとされている。そしてオストハウスが提示した「心理的親縁性」(Psychische Verwandtschaft)という概念は、ドイツの植民地政策や西欧中心主義といった問題をはらみつつも、近代化の過程で西欧社会が直面した、人間性の喪失に対する危機感を背景に、非西欧の事物を積極的に受容しようとする態度をも反映しており、複雑な構造を備えている。非西欧、すなわち異文化の事物を、西欧近代の産物である美術館・博物館でいかに展示すべきかという問題が現代の課題であり続けていることは、ニューヨーク近代美術館における『20世紀美術におけるプリミティヴィズム』展(1984)やパリで開催された『大地の魔術師』展(1989)、2006年に開館したケ・ブランリー美術館、さらには近年のアフリカ現代美術展などが、常にこの問題に直面することを余儀なくされていることから明らかである。このような現況下で、フォルクヴァング美術館というひとつの端緒に立ち戻り、非西欧がいかにまなざされたかを歴史的に検証し、非西欧の側から逆照射して考察することは、意義あることであると考える。
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