鹿島美術研究 年報第28号
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― 51 ―㉘ ガストン・フェビュスの《狩猟の書》―ゴシック後期世俗装飾写本におけるイメージの変遷をめぐって―『二十四孝』にはこの雷神の姿が描かれているなど、押絵貼形式の図様と嵯峨本との間には影響関係が認められる。嵯峨本の挿絵筆者が狩野派の絵師であるとの指摘はすでになされているが、本研究での二十四孝図の分析はこの筆者問題の再検討にも繋がることとなろう。押絵貼形式の図様が他の二十四孝図とどのような影響関係を持つのかを比較検討することによって、室町時代末期から江戸時代初期という図様の成立期における二十四孝図が、近世の二十四孝図へいかに受け継がれたのかを明らかにすることができると考える。また、二十四孝図は、狩野派による渡来版本参照の可能性が指摘されるものの、その図様には様々な要素が混入しているため、典拠を明確にすることは困難とされている。本研究では二十四孝図の成立過程において、同じく渡来の版本を典拠とする帝艦図などとの図様の往還が生じたことを想定している。よって、帝艦図や四季耕作図など、中国画題の作例をも視野に入れ、相互の図様成立に関わる動的な分析を行っていきたい。研 究 者:東京藝術大学大学院 美術研究科 博士後期課程  髙 木 麻紀子《狩猟の書》の挿絵研究は、これまでパリ本を中心に行われ、様式分析に基づく描き手の分類が進められてきた。これは今後も継続されるべき課題であるが、《狩猟の書》の系譜を概観し、その中で各模本の位置づけを試みること、そして、西洋中世の「狩猟術の概説書」の中での位置づけを、美術史的観点から行う必要があるだろう。① 各模本の調査:《狩猟の書》の現存模本の点数及び古文書学的特質を記してきたのは、主に古文書学者及び文学史家であったため、美術史的観点からは、未だ多くが謎に包まれている。これらの模本の概要をシステマティックに明らかにすることが急務であるが、とりわけ今回の研究で新たに注目する模本は、挿絵の質も高く、また、先行する模本には見出すことの出来ない新たな図像が登場する点でも興味深い、パリ、マザリヌ図書館所蔵の1点(ms.3717)である。② ガストン・フェビュスの《狩猟の書》の系譜の中でのイメージの変遷:①を基に、挿絵を比較分析することによって、同じテクストを飾る各模本の挿絵の特色とそ

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